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  • 2020.03.10

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 高等学校卒業式 式辞

    出たとこ勝負

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 卒業生のみなさんは、おおむね順調な高校生活を過ごして来たと思います。ですが最後の最後に予想外の出来事が起きてしまいました。成城学園高等学校が用意していた様々なプログラム、授業も部活動も行事もすべてこなし、さあ、卒業だと思った時に、新型コロナウイルスの影響で今日の卒業式を異例の形でおこなうということになってしまいました。世の中を見渡すと、かなり過剰な、集団ヒステリーのような反応もあるように思えますが、やはり皆さんの健康が最も大切ですので、各教室でモニターを通しての卒業式という形をとることにいたしました。
 私からみなさんへのお祝いの言葉も、それに合わせて急いで書き換えました。
 いつも卒業式の後に、学園のウェブサイトの中にある私のブログに式辞を掲載してもらっているのですが、今回は今日これからする話と、もともと話すつもりだった話の両方を掲載するつもりですので、読んでくれると嬉しい。

 さて、男子のみなさんは美人が好きですよね。女子のみなさんはハンサムな人に魅かれますよね。それは、なぜですか?
 以前読んだ、動物の行動を研究している学者の本にはこんなことが書いてありました。
 美人やハンサムというのは、基本的に左右対称、シンメトリーな顔をしている。左右の眼の位置や大きさが揃っていたり、鼻のラインと口とがきちんと垂直であったりと、左右にゆがみがないということが、美人やハンサムの大前提となる。そしてそれは、その人がウイルスや病原菌や寄生虫に侵されていない、すなわち免疫力が高くて健康だという証拠であるというのです。病原菌などに侵されると、どうしても体のあちこちに問題が発生する。顔の左右のゆがみもそのひとつです。
 我々の直接の祖先であるホモサピエンスの誕生から20万年くらいの年月が経ったそうですが、それは病原菌などとの闘いの歴史でした。その年月の間に人類は病原菌などに侵されていない仲間を一目で見分ける能力を遺伝子の中にプログラムしてきた。免疫力の高い健康な異性と結ばれれば、強い子孫を残すことができます。内臓など他の場所とは違って、顔ならば、一目でどういう健康状態か見分けがつきます。簡単にその判断ができるというわけです。ですから男子は無意識のうちに美人を好きになり、女子はわけもわからずハンサムに魅かれるように仕組まれているのです。
 本能にまで影響を受けているわけですから、人類にとって病原菌などは、最も長い年月をかけて戦ってきた最大の宿敵と言えるでしょう。
 そう考えてみると、この新型コロナを巡るドタバタは仕方のないことなのかもしれません。目に見えないそれらの敵を恐れるという本能も、人類の長い歴史の中で生まれてきた感情なのでしょうから、神経質になってしまうことも理解できます。
 そういう20万年かけた戦いのひとつだと思えば、卒業式がみなさんの期待と違った形でおこなわれることも、やむを得なかったと納得するしかないようです。
 ただ実際のところは、新型コロナに限って言えば、それほど恐れるべき相手だとは私には思えない。感染したとしても、致死率は大して高くはありません。ふだん健康な人なら、たいがい跳ね返すことができそうです。あんまりピリピリしない方が良いのかもしれません。
 みなさんは1年間で何人くらいの日本人が自殺しているか知っていますか?交通事故の死亡者数を知っていますか?
 日本では年間2万人くらい自殺する人がいます。また昨年の国内での交通事故死亡者数は3215人だそうです。ですから、ホントはコロナより自殺や交通事故を防ぐ方に力を注いだ方が、実利的ではあるのでしょう。でも人類はやっぱり長年の宿敵との闘いの方を優先してしまうのでしょうね。
 ところで、みなさん自身は、この20万年を生き延びてきた人類の、最先端の存在です。全てのウイルスや病原菌や寄生虫に打ち勝ち、淘汰されることなく遺伝子を受け継いできたその結晶として、今そこに座っています。遺伝子を受け継ぐ力と価値があったからこそ、キミたちの先祖はずっと異性に選ばれ続けてきた。キミたちひとりひとりの先祖は20万年間、一度も子孫を残すことに失敗しなかった。その最新型のモデルとしてキミたちは存在している。そのことを忘れないで欲しい。私が今日みなさんに伝えたいことはその一点です。キミたちの身体の中には人類の生き残りをかけた20万年に渡る戦いに勝ち残った、そういう強力な武器が必ず隠されています。つまりキミたちはみんな美人だし、みんなハンサムです。
 これから色んな人生を歩むわけだけれども、上手く行かないことがあってもクヨクヨする必要なんてない。素晴らしい価値を持った人間であることを忘れずに、次のステップに進んで欲しいと願っています。

 本当はここで、最後に保護者の方へのお礼を言うのが慣例です。でも今日はキミたちの卒業を最も喜んでいる方々は参列されていません。私からは感謝を伝えることができません。ですから、後でキミたちが感謝を伝えるときに、ついでに校長も「ありがとうございます」って言ってたよと、一言付け加えてくれるとありがたい。
 卒業式の後におこなう予定だった「祝う会」の準備などにも父母の会の委員の方々が、本当に一生懸命尽力されていました。また、すでに気づいていると思いますが、守衛室の前に設置された時計はみなさんの卒業記念品としていただきました。
 最後に私事ですが、キミたちの学年が中1に入学した時に同時に校長になったので、キミたちの卒業は特に感慨深いものがあります。キミたちは6年かけて立派に成長しました。私も一緒に成長したかったのですが、残念ながら歳を取っただけでした。
 まだ、新型コロナのドタバタはしばらく続くとは思いますが、健康に気を付けて、新しい道へ進んでいって下さい。
 卒業おめでとう。以上です。