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  • 2018.03.10

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 高等学校卒業式 式辞

    出たとこ勝負

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 卒業おめでとう。
 みなさんは創立100周年の年に卒業していく記念すべき生徒ということになります。同時にみなさんは中学校と高等学校とがひとつになる流れの中で、新たな学校を作る取り組みに参加した歴史的な卒業生でもあります。皆さんの卒業を心よりお祝いしたいと思います。

 三年ほど前のことですが、U-18ベースボールワールドカップが開催されました。これは18歳以下すなわち高校生の参加できる野球の世界選手権ということになります。
 日本が開催地であったことと、オコエ瑠偉くんや清宮幸太郎くんなど、甲子園を沸かせた実力のある選手がたくさん日本チームにいたことで、非常に盛り上がった大会となりました。日本が優勝するかもしれないという期待も高まっていました。
 ところが残念なことに日本チームは決勝戦でアメリカに2対1で負けてしまいます。
 その結果を伝える翌日の、ある新聞に私はこんな見出しを見つけました。
 「日本チームには何が足りなかったのか」
 私はこの見出しを見て、問題はこの新聞に代表される、日本人の発想そのものにある、と感じました。
 日本人に多い考え方の特徴です。例えば何かに挑戦するとき、得意なことを伸ばすのではなく、苦手を克服することばかりにエネルギーを注いでしまう。例えばうまく物事が運ばなかったとき、ミスにばかり注目が集まってしまう。
 何が足りないのか。何が欠けているのか。何がダメなのか。日本人にはそういう、マイナスばかりに気を取られる傾向があるようです。

 この野球の世界選手権と同じ年に、こんな調査がありました。国立青少年教育振興機構が「高校生国際比較調査」ということで、日本、アメリカ、中国、韓国の4カ国で高校生の意識調査をおこなったのです。その中に次のような質問の項目がありました。
「自分はダメな人間だと思うことがある」というものです。
さて、どんな結果だったでしょう。話の流れから鋭い人は予想がつきますよね。
 日本がダントツの第1位で、72.5%の高校生が「とてもそう思う」あるいは「まあそう思う」という回答のどちらかを選んでいます。最も少なかったのが、韓国の35.2%でした。つまり韓国の倍以上の日本の高校生が「自分はダメな人間だ」と感じることがあるということになります。10人中7人以上が自分をダメだと思うわけですから、これは驚きです。
 日本の教育現場では今でも「何ができないか」「どこがダメなのか」「あれを直せ」「ここが足りない」などという指導が当たり前におこなわれています。もちろん自分の弱点を知り、それを改善することでステップアップできることはたくさんあります。しかし全ての発想がマイナスから始まってしまっては、気が滅入るだけです。自分がたいしたことのないダメな人間に思えてきます。この調査からはそんな高校生の姿が浮かび上がってきます。
 学校という場所は生徒のダメなところを探すために存在するのではありません。学校は、生徒が何かをできるようになるために存在している場所です。ですから発想を変えなくてはいけない。

 みなさんはかなり難しい文章を読みこなし、複雑な数式も理解しています。外国の人とも何とかコミュニケーションをとれる人がたくさんいます。魅力的な歌声を響かせ、美しい絵画を描くこともできます。かなりのスピードで走ることもできます。いくつかの物事を組み合わせて、問題を解決に導くこともできます。もっともっと細かく見ていけば、できることは無限にあります。自分は何ができるのか。そういう目で見直すことによって、発想は大きく変わります。
 学問以外の分野でも同じです。友達を大切にすることができる。仲間をまとめることができる。強い奴に立ち向かうことができる。毎日を楽しく過ごすことができる。いくつでもあげられるはずです。
 はじめに例としてあげた野球についても、決勝まで進んだチームどうしの対戦で、その試合も2対1という僅差での敗北でした。実力に差があるとも思えません。ちょっとした体調の具合、風の吹く方向、そして偶然による運の良し悪しの違いだけで、どのような結果にでもなったと言えるでしょう。
 優勝を逃した本人たちは想像もつかないほど悔しい思いでいることでしょう。十分に自己分析もしているはずです。その彼らに対して「お前に足りないのはこれだ」などと言うことに意味があるのでしょうか。
 でも、残念なことに、これが日本の伝統的なものの考え方だったのです。

 卒業生のみなさんにお願いがあります。自分を「何ができないか」ではなく、「何ができるか」というプラスの目で見つめ直してください。中高の6年間で、高校の3年間で何ができるようになったか思い出してみてください。驚くほどの成長がそこにはあります。たくさんの「できること」を身につけてみなさんは卒業していきます。それが成城学園の教育だと私は信じています。日本全国の高校生たちが抱える淀んだ気分を吹き飛ばすエネルギーにみなさんは溢れています。
 私もキミたちに負けないよう、プラスで物事をとらえる努力をしていこうと思っています。
 みなさんも失敗や挫折を味わうことがあるかもしれない。でもそれはキミに何かが足りなかったからではない。他のことに挑戦するチャンスを与えられたに過ぎません。
 成城学園の卒業生には「自分には何ができるのか」ということを発想の中心に置いて、人生を楽しく豊かに作っていかれることを願っています。

 保護者の皆さま。お疲れ様でした。お子様は立派に成長しました。これからは一人前の大人として接してあげてください。またこれまでの成城学園へのご支援ご協力に感謝いたします。ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
 さあ、みんな。卒業です。自分の道を歩いて行け。
 以上。