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  • 2018.03.19

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 中学校卒業証書授与の会 式辞

    出たとこ勝負

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 卒業おめでとう。キミたちは成城学園創立100周年という年度に中学校を卒業する記念すべき生徒になったわけです。みなさんの卒業を心よりお祝いいたします。

 今年度は中学生が大人の世界で大活躍するというニュースをいくつも目にすることがありました。
特に話題になったのは卓球の張本智和選手と、将棋の藤井聡太六段でしょう。
 張本選手は昨年8月、国際卓球連盟のワールドツアーに於いて、男子シングルスで優勝しましたが、これは14歳と61日という世界最年少記録だそうです。
 また藤井六段は14歳2か月でプロ棋士になり、これも歴代最年少記録だそうです。そしてデビューからの無敗記録を伸ばし、29連勝を達成しました。六段に昇格したのも中学生としては史上初の快挙だそうです。
張本選手は東京の区立中学、藤井六段は愛知の国立大学附属中学に通っているそうです。
 こういう若者の活躍を知ると、中学生の秘めている無限の力を感じ、嬉しくなります。才能に恵まれ、それを十分に発揮する努力を続けてきた結果でしょうが、普通の人には長い時間が必要なことを、生まれてからたったの十数年間で達成してしまうわけですから、本当に立派な活躍です。
 ただ私はこういう素晴らしい活躍を耳にするたびに思うことがあります。それはいわゆる普通の中学生と彼らとの間にどれほどの差があるのだろうかと言うことです。
たとえば仮にこの世に卓球というスポーツがなかったら。将棋というゲームがなかったら。彼らは他の何かで同じように大活躍をしていたのだろうか、などということも想像してしまいます。持ち前の努力と集中力を発揮することは間違いないでしょうが、今のように有名になったかどうかは、もちろんわかりません。

 ほとんどの人間は世の中に名を知られることなく一生を過ごしていきます。何かで一番になることもなく生きていきます。ではそういう人には才能がないのでしょうか。努力が足りないのでしょうか。そんなことはないということはみなさん自身が知っていますよね。
 みなさんも中学の3年間にいろいろな分野で努力をしてきたし、目指す道で活躍してきた人もたくさんいます。素晴らしい結果を残してきた人もいます。
 ただ、残念ながら人間は自分に何の才能があるのか最初から知ることはできません。たまたま背が高かったからバスケットボールの道に進んだけれども、実はその人にはバイオリンの才能が隠されていて、そちらの道に進んだ方が成功しただろう、なんていうことがあるかもしれない。自分が目指す道と生まれ持った才能とは合致しないこともあるわけです。そこが人生の面白いところでもあり、難しいところでもあります。
 それでも人間は自分の選んだ道で真剣に努力しなければならない。張本選手や藤井六段の大活躍は生まれつきの才能と目指す方向がぴったりと合致した結果なのでしょう。
 でも、今日、私がみなさんに伝えたいのは、そういう人になってほしいというメッセージではありません。全く逆です。普通の人の普通の人生にも無限の価値があるということです。

 先日卒業生から、スピノザウルスという恐竜の化石が成城学園に寄贈されました。その感謝の集いで化石を眺めながら、私は生命の歴史について、次のようなことをボンヤリ考えていました。
 生命が地球上に誕生してから40億年くらいがたちます。恐竜の時代からは2億年。そして私たち人類の直接の祖先が生まれてからは、いろいろと説はあるようですが、20万年くらいたっているそうです。
 いまこの講堂に座っているみなさんの命はその長い年月の間、途切れることなく続いてきました。きみたちひとりひとりは15年ほど前にこの世に突然生まれました。でもそれはお父さんとお母さんの命のバトンを引き継いだに過ぎない。命としては突然生まれたわけではないのです。ずーっと続いています。お母さんも同じようにおばあちゃんの命を引き継いで生まれました。そしてそのまたお父さんは。さらにさらに。という具合にどんどんと遡っていくと、人類誕生の20万年前にもキミの命の大もとは必ず存在していました。それがキミの祖先です。その時から一度も途切れたことはない。
 そして、さらにその前をたどっていくこともできます。そうなると、もう人間ですらない。2億年前にも40億年前にもキミの命の源は存在していた。つまりキミが今ここにいるということは40億年分の奇跡の結果ということになります。
 そう考えると、小さな違いなんて全て吹っ飛んでしまいます。才能のあるなしなんて気にするほどのことではないと思えてきます。全ての中学生には無条件でかけがえのない価値がある。私はそう考えます。あとはそこに一人ひとりの個性を足し算していくだけです。
 ちょっと計算が苦手でも、かけっこが遅くても、上手にしゃべることができなくても、そんなこと、どうってことはない。ちょっとハンサムでも、歌が上手でも、パソコンに詳しくても、それは小さなプラスアルファに過ぎません。
 40億年分の命を背負ってそこに生きて座っているということ。それに勝る価値はない。自分の命を、そして周りの人たちの命を、人類全ての命を大切にする意味はそこにあります。
 だからといって張本選手や藤井六段の活躍には価値がないという意味ではもちろんありません。彼らの素晴らしい才能や努力を讃えつつ、全ての中学生には等しく無限の価値と希望があるということを伝えたいと思って、今日の話をしました。
 私もきわめて平凡な人生を送ってきました。でも自分にも、生きているという無限の価値があると信じています。
 有名になったり、お金持ちになったり、1番になったりすることにはもちろん価値があります。でもそうではない普通の人生にも変わらない価値がある、ということを忘れないで下さい。そして皆さんがもっともっと大きく成長していくことを願っています。

 保護者のみなさま、おめでとうございます。お子様たちは立派に成長しました。多くの生徒諸君がこのまま学園高校に進学してくれます。ですからまだ半分です。これからもお子様の成長をハラハラ、ドキドキ、ワクワクしながら見守ってあげてください。我々教職員一同も次の3年間を今まで以上に頑張っていこうと決意しております。
 また、これまで同様に成城学園へのご支援ご協力もよろしくお願いいたします。
 さあ、みんな。次のステージへの階段を昇ろう。卒業おめでとう。以上。