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  • 2016.03.14

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 高等学校卒業式 式辞

    出たとこ勝負

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[挨拶部分は省略]
 2015年度に日本の人々を喜ばせたニュースのひとつとして、2年連続で日本人がノーベル賞を受賞するということがあげられると思います。しかも二つの分野での受賞という素晴らしい結果になりました。マスコミでも連日このことが取り上げられていましたが、今日はその中で、私が不思議に感じたことを話そうと思います。
 物理学賞を受賞したのは東京大学の梶田隆章(たかあき)教授ですが、それまで質量がないと考えられていたニュートリノに質量があるということを発見した功績で梶田さんが受賞されたということは知っていますよね。しかし私には梶田さんの受賞をめぐる報道の中で、気になることがひとつありました。それは複数のテレビ番組でリポーターや司会者が口にした共通する質問です。それは「何の役に立つんですか?」というものです。梶田さん自身に問いかけた番組もありましたし、一緒に研究をしている別の学者に尋ねていることもあったのですが、たいがい苦笑いの表情で「直接何かの役に立つということはありませんが、宇宙の始まりを解き明かす研究につながるかもしれません。」というようなことを答えていらっしゃいました。
 テレビを見ていた私は「どういう研究か、たった今まで説明してただろ。ニュートリノのおかげで生活が便利になりますねとでも言いたいのか!くだらない質問をすんな。」とわめきそうになったのですが、テレビに話しかけるようになると老人になった証拠だそうですからやめておきました。それにしても「みみっちぃ」質問だと思いませんか。まるでこの研究を「ゆで卵を上手に剥ける裏ワザ」か何かと同列に見ているとしか思えない口調でした。
 すぐに人類に貢献できる発明や発見も確かにあります。今年度のノーベル賞に輝いたもう一人の日本人である大村智(さとし)先生の発見は、寄生虫に効く薬品の開発に結び付くものでしたから、これは多くの人を救うことに直結するでしょう。だからと言って梶田さんの研究が大村さんの研究より価値がないことにはもちろんならない。人類の知的財産に新たなページを開いたという点ではものすごく価値のある研究であることは皆さんもお分かりの通りです。
 ただキミたち中高生と話しているときにも時々同じことを感じることがあります。こんな勉強何の役に立つの。というセリフを発した人は大勢いるのではないでしょうか。苦手な勉強があると、ついそういうことを言いたくなる。でも同じように役に立ちそうもない勉強なのに熱心に取り組んできた科目もありますよね。たいがいそれは得意だったり面白く感じていたりする勉強です。高校の3年間で学んだことを思い出してみてください。たいがい生活の役には立たないものばかりですよね。そうなんです。学問というのは最終的には面白いからやるものなんです。知りたいからやるものなんです。
 役に立つということを突き詰めていくとどうなると思いますか。人間も生物です。動物です。生物の基本は自分自身の保存と遺伝子の伝達ですから、食べていくことと子供を作ることが最も大事です。つまりこの二つに結びつくことだけが究極的には役に立つということになってしまいます。それ以外は余分なことです。確かに野生動物を見ていると余分なことをできるだけしないように生きています。食べることと子供を作ることだけにエネルギーを集中しています。しかし人間は違います。その余分なことにこそ人間らしさがある。哲学も、芸術も、考古学も、物理学も、スポーツも、直接的にはお腹を一杯にはしないし、子孫を残すことにもつながりません。しかし人々はそれらに情熱を傾け続けてきた。楽しいからです。面白いからです。知りたいからです。役に立つか立たないかは後から考えれば良い。役に立つことしかしなくなると、人生の喜びは半減します。
 みなさんのほとんどはこれから大学に進みます。大学は面白いからこそ勉強のできる場所です。社会に出れば、否応なく役に立つことが求められるようになります。今の文部科学省は大学を卒業したらすぐに実践の役に立つ学生を育てろと言ってきます。どこの大学も役に立つことをたくさん教えてくれるでしょう。ですから校長としては役に立つことを学びなさい、と言うべきなのでしょう。でも私はあえて皆さんに反対のことを言いたい。今日から社会に出るまでの数年間は、役に立たないことに没頭できる最後のチャンスでもあるということ。そこにこそ新たな発見、人類の飛躍の種があるということを。役に立たたなくても良い。学ぶことをがむしゃらに楽しんでください。

 そういえば梶田さんが研究してきたニュートリノですが、高校3年生ですから、まさかこれをニュー、新しいトリノだと思っている人はいませんよね。ニュートリノは中立・中性を表すニュートラルという言葉と小さいことを表すイノというイタリア語を組み合わせた言葉です。電気的にプラスでもマイナスでもない素粒子という意味です。ものすごく小さいので何でも通り抜けてしまうそうで、今この場所にもニュートリノが上からも下からも降り注ぎ、皆さんの体を突き抜けていっているわけです。見えない物をそうやって想像するだけでも、やっぱり学問は面白いと思いませんか。
[挨拶部分は省略]

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