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  • 2015.03.10

    特別編 石井校長 出たとこ勝負① 2015年度高等学校卒業式式辞

    出たとこ勝負

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 副校長の時に書いていたブログ「出たとこ勝負」4回だけ復活します。中高それぞれの卒業式・入学式での私の無駄話を載せますので、読んでやってください。

中学校高等学校長 石井 弘之

 早く来てほしい。いや、ずっと来ないでほしい。そんな3月10日が来てしまいました。卒業生のみなさん、おめでとうございます。新しく改築されたこの澤柳記念講堂における最初の大きな行事として高等学校卒業式が執り行われることを心より喜んでおります。3年間あるいは6年間、一緒に過ごしてきたこの成城学園中学校高等学校から皆さんは巣立っていきます。毎日の授業、友達との何気ない会話、仲間と励まし合った部活動、本気で頑張った体育祭、課外教室での驚き。それらひとつひとつがみなさんの血や肉となっているに違いありません。また、中学2年のちょうど明日、大震災にあって学校で一晩を過ごした人もいるかと思います。みなさんの前途をお祝いしてはなむけの言葉を述べたいと思います。

 私はアジアの旅行が好きで、中でもインドは合計すると1年以上滞在していることになります。数年前、旅先で知り合ったインド人から、「お前、インドの地下鉄は日本の女性が掘ってんの知ってるか?」と自慢されました。なんで日本人の自慢をインド人から聞かなくちゃいけないんだと思いましたが、気になったので帰国してから調べてみました。彼の言うことは本当でした。デリーの地下鉄は日本人の女性、阿部玲子さんが現場の管理者としてトップに立って作っているという記事を見つけました。
 みなさんはこの半年、教室の窓から、新校舎の建設現場を眺めてきたと思いますが、あそこで働く方のほとんどは男性だということに気づきましたか。設計のチームには女性もいらっしゃいますが、現場で工事に直接携わっているのは男性ばかりだというのが現実です。
 阿部玲子さんもその現実の壁にぶち当たった一人です。トンネルを掘ってみたいという夢を持って、大学を出てから建設会社に就職した。しかし、いつまでたっても現場には出してもらえませんでした。土木や建設というのは日本ではおそらく女性が参加することの最も難しい業種の一つなのだろうと思います。そこで阿部さんは、次の手を考えます。男女がほとんど区別なくそういう仕事に就いている国、ノルウェーに留学することにしました。
 ノルウェー語というのは想像もつきませんが、阿部さんも言葉ではずいぶんと苦労をされたようで、精神的にもきつかったそうです。しかしそれを何とか乗り越え、トンネル工事の研修に志願し、経験を積んでいきました。そしてついに台湾に新幹線を作る時のトンネル工事の担当に抜擢されました。さらには最初に申し上げた通りインドの地下鉄を作る全体の責任を任されるまでになったというわけです。土木という男の世界で、全く違う文化を持つインドの人たちのリーダーとして、日本の女性が活躍しているということに驚かされます。

 私はキミたち卒業生にも、この阿部玲子さんのような人になってもらいたい。もちろんトンネルを掘れっていう意味ではありません。自分の描いた夢。大切にしている目標。それを実現するためにどんな行動をとるのか。他の人がやったことのないことにどうやって挑戦するのか。挫けそうになった心をどうやって奮い立たせるのか。彼女の経歴から学ぶことがたくさんあるという意味です。
 自分の夢のために、男女の壁を飛び越え、言葉の壁を打ち破り、文化の壁をも乗り越えてしまう。そういう人がキミたちの中からあらわれてほしいと願っています。
 卒業はゴールではありません。今日、この場を出発点として新たな挑戦が始まります。すでに目標が定まっている人は幸せです。そこに向かって一歩一歩進んで行ってください。多くの皆さんはまだぼんやりした目標しか見えていないのではないでしょうか。そういう人もまた幸せです。誰も夢見たことのない、特別な目標を手に入れるチャンスが待っています。
 ほとんどの人は学園高校を卒業した後に大学での生活を経て、社会に出ていくことになります。大学での活動を有意義に送れるだけの土台はすでに完成しました。私たち中高の教職員が手伝えるのはここまでです。その土台の上にどんな建造物を建てるのか。キミたち一人一人が人生の設計図を描かなくてはいけません。そして現場監督もキミたち自身です。
 阿部玲子さんは2013年「日経WOMAN」という雑誌の「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」リーダー部門を受賞したそうです。夢に向かって真剣に歩んでいる人を周りは必ず応援したくなるものです。
 [挨拶部分は省略]