どういうわけだか、校長になってしまいました。中学校の入学式で話した式辞を載せたいと思います。

 (挨拶部分はカット)
 この数年、ひとりのパキスタンの少女に世界の目が向けられることが何度かありました。テレビなどでも報じられたので、知っている人もいるのではないでしょうか。名前をマララ・ユサフザイさんと言います。
 私はアジアの国を旅行することが好きで、パキスタンにも行ったことがあります。カラチという海辺の街から、一番北の中国国境までバスで旅行しましたが、とても親切な人達が多いという印象を持っています。
 さて、そのマララさんですが、彼女にはある主張がありました。それは「学校にちゃんと行きたい」「教育をきちんと受けたい」と言うことです。彼女はブログなどを使ってそういうことを11歳の頃から訴え始めたそうです。
 パキスタンはイスラム教を信じている人の多い国です。イスラム教には「女性は守るべき存在だ」という教えがあります。それが「守るべき存在なら家にいるべきだ」さらに「女性が学校に行くことは良くないことだ」と考える人達が現れました。
 パキスタンという国は決して女性差別をする国ではありません。日本では女性の総理大臣はまだ生まれていませんが、パキスタンではすでに女性が首相になったこともあります。しかし残念ながらマララさんの住んでいる地域では、女性が学校に行くことは良くないと考える人達が支配を強めていたそうです。
 その中で恐ろしい事件が起きました。ある日、バスの中で、マララさんの主張を苦々しく思っている人達によって彼女は銃で撃たれました。2012年おととしの10月の出来事です。しかし奇跡が起きました。2発の銃弾は頭から入り、あごと首の間で止まったそうですが、一命をとりとめ、パキスタンの病院に運ばれ、その後イギリスの病院に移され、現在は16歳、体もすっかり回復したそうです。そして再び教育の重要性を訴える活動を始めています。
 この出来事から学ぶことはたくさんありますが、私は次のことをみんなに考えてほしいと思っています。それは、命がけで学ぶことを求めている人達がいるんだということです。そして、学校というのはあるのがあたりまえなのではなく、みんなで大事に守っていくべきものだということです。
 さて、キミたちが学ぶ、成城学園ですが、やはり多くの人達の手によって大事に守られてきた教育の場です。澤柳政太郎がこの学校を創設して以来、数多くの教職員、生徒、保護者、卒業生。そういう人達によって支えられ発展してきました。ここに成城学園があるのは当たり前。そう考えてはいけません。みんなの努力の結晶として成城学園は存在しているのです。そしてキミたちもいま成城学園を支える仲間になったわけです。
 では学ぶ方はどうでしょうか。キミたちだけでなく私たち大人も含めて、比較的平和で自由な日本では、学ぶことの重さをついつい忘れてしまいがちです。何事も失って初めてその大切さに気づくものですが、世界には、命がけで学ぶことを求めている人達がいる。そのことを考えたとき、私たちはもっともっと学ぶことの価値を真剣にとらえ、実行していかなくてはなりません。
 勉強が退屈に思えたり、つらいと感じたりした時にはぜひパキスタンの少女の願いを思い出してみて下さい。
 先ほど、キミたちも成城学園を支える仲間になったと言いましたが、では、どのようにしたら支えることができるのでしょうか。簡単です。素晴らしい中学校生活を送って下さい。成城学園の生徒は魅力的だ。そう言われるように成長してくれさえすれば良いのです。
 私も校長としては1年生です。みなさんのようにグングン成長するというわけにはいきませんが、一緒にこの成城学園で学んでいきたいと思います。