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  • 2014.02.14

    出たとこ勝負 55 好きこそものの上手なれ(4教科選択授業の風景)

    出たとこ勝負

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1.私が教室に入ってきたことに誰も気づかなかった。一心不乱にハンマーを振り下ろし続けている。集中力と騒音があまりにすごくて、アトリエの扉が開いたことに意識が向かなかったのだろう。2分ほど眺めているとようやく一人の生徒が、隣の友人の肘をつついて、変な奴が見てるぞという伝達を行ったが、それでも手は止まらなかった。「金属工芸」の授業の一幕である。このときはハンマーで金属をたたいて、大きくカーブをつけている最中だった。

2.ミュージックホールの一室ではトランペット・トロンボーン・ホルンなどが鳴り響いている。私が窓から覗いているのに気づいた教員が出てきて、「中に入って見てってよ」と招き入れられる。まだ3回目の授業のはずなのに、それなりに音が出ている。時々立っては管の中にたまった唾をバケツに捨てに行く。しばらく個人練習が続いた後、やおら先生がピアノを弾き始める。それに合わせて音階の練習が始まる。だんだん音がそろっていく。十数人の「金管アンサンブル」はドレミを吹くだけでも迫力がある。

3.男の子が針に糸を通そうとしている。真剣な寄り目である。隣では既に縫い始めている女子が先生と何か相談している。私に気づいた別の男子が手招きをする。入らずにいるとわざわざドアを開けに来てくれる。「オレ、明日からいないから、やれるとこまで頑張ってんだ」。彼は学園高校へは行かず、カナダの現地校に進学するため、しばらく日本を離れることになっている。被服室には「ぬいぐるみづくり」のメンバーが集まっている。女子の方が多いが、意外にも男子がかなり混じっている。同じ型紙から作っても、完成品はどれも違う表情をしているそうである。

4.金曜の放課後、職員室にいるとお菓子が届く。「製菓実習」の講座で作ったばかりの作品だ。この日はクッキー2種類だった。「今日は生徒たちがたくさん持ち帰ったから少しだけ」と担当の先生が言っていた。

 高校にはいろいろな選択授業が用意されているが、中学校は基本を身につける場所だから、好き嫌いにかかわらず、ほとんどの科目を全員が同じように受講する。その中で、成城学園中学校では唯一と言って良い選択の科目が3年生3学期に置かれている。「4教科選択授業」だ。これは音楽・美術・書道・技術家庭の4科が共同して行っている。それらの時間をこの期間だけ統合し、18講座の中から生徒たちに選ばせるという形式だ。月曜・金曜の5・6時間目、すなわち週4時間、ひとつのことに打ち込むのだ。3学期は5週ぐらいあるから、約20時間。それだけ費やすと、なかなか立派な作品となっていく。好きなことに集中して取り組むことのできる楽しい時間だ。
 年度末には発表会や展覧会をおこなって締めくくることになっている。保護者にもぜひ見ていただきたい。

■講座一覧

金管アンサンブル 合唱 ミュージック・ベル
独唱と重唱 ヴァイオリン 金属工芸
土と造形 木彫 日本画入門
油絵入門 Art クロスオーバー 書道
ペン習字 ワープロ&表計算 木工作
ぬいぐるみづくり 製菓実習 編み物