学園高校にオーストラリアから男の子が来ていた。約3週間の滞在だった。
 中学校のオーストラリア短期留学で、こちらの生徒を受け入れて下さった家庭のお子さんである。その時お世話になった成城の生徒の家庭が今回はホストファミリーを務めてくれたのだ。
 もう帰国するというので、校長・副校長とで日本滞在と成城学園での生活がどうだったのか、話を聞く会を設けた。
 驚くべきは彼の日本語力である。その会でも全く会話に困らなかったが、国語の授業でも、高1の教科書は問題なくスラスラ朗読できたそうである。正直言って、成城学園の生徒の中には、朗読のたどたどしい子だって混じっている。しかも立派なのは彼がその能力をほとんど独学で身につけたということだ。
 中学校が短期留学でお世話になっているセント ノバートという学校はオーストラリアのパースにある。面白いことに日本語の授業を選択できるコースが設けられている。ただ日本の学校でもフランス語や中国語の講座をとったからといって、それがぺらぺらにしゃべれるようには普通ならない。私なんぞはアルザス校勤務でフランスに住んでいたにもかかわらず、からっきしである。それをこの少年はアニメやインターネットを駆使して日本の高校で学ぶことができるレベルにまで日本語を獲得してしまったのだ。語学の才能があると言ってしまえばそれまでだが、興味を持ったことをトコトンやるという姿勢こそが才能なのだろう。数学はちんぷんかんぷんだと言っていたから、得意不得意はあるだろうが、今度の高1の期末テストをオーストラリアに送ってあげることになった。
 成城学園の授業のレベルは高いという感想だったが、スタイルの違いという点では、日本は教師が講義をし、生徒はそれを聞きノートするという形式が多いこと、オーストラリアではディスカッション形式が多いことをあげていた。
 彼が加わったクラスの担任によると、彼がいることで周りの生徒がとても良い刺激を受けていたそうである。他者からの視線というのは人を緊張させるが、それがほどよい具合に効果を上げたのだろう。特に明らかに容貌の違う白人の少年が自分たち以上に日本語に興味を持って使いこなしている姿は、受け入れたクラスにとっては貴重な衝撃となったと思う。今はメールやスカイプなどを使えば、離れていても交流を続けることが容易な時代だ。きっかけを作った生徒だけでなく、彼らの交流がさらに広がることを期待している。
 今回のようなことは滅多にないチャンスだっただろうが、来年度は姉妹校のマクダナからも短期留学生が何人か高校にやってくることになっている。日米両方の生徒にとって良い刺激を与え合ってくれることを願う。
 どうせならアラブ人もインド人もアフリカ人も南米人も訪ねてくれる場に成城学園がなったら嬉しい。様々な偏見を持たない子どものうちにこそ生身の交流が重要なのだ。