国語の漢字や英語の単語などは、定期テストだけでなく授業中に小テストが行われることが多い。私も国語科の一員ではあるが、今年度はいわゆる「現代文読解」の授業を持っていないので、この漢字テストをやることはない。この小テスト、けっこう好きなことのひとつなので残念である。
 国語科の他の教師を見ると、ちゃんと問題が印刷されたテストプリントを用意し、読み書きの確認をしている。私のやり方は違う。ただの白い紙である。作品に出てくる漢字を4回シリーズにして10問ずつ出題する。A4の紙を配布し、縦に置き、上下に2回折らせて4等分にする。この時点で既に着いてこられない生徒がいる。もちろん口で言うだけではなく、見本を見せるのだが、それでも間違った方向に紙を折ってしまう。
 ひとつの枠に縦書きで10問書かせる。4日で紙が埋まる。書き取りの問題は私が口頭で言う。この段階でまた脱落者がいる。答えを横書きにする者、枠の意味が理解できない者。初めて私に習う生徒は4月にはきっと戸惑っているに違いない。こうやって誰がどういう特徴を持つのか確かめていくのだ。漢字テストを数回受ければだいたいやり方は定着するが、それまでには学ぶ力、指示を理解する力がこちらにばれてしまう。
 10問ずつ出題するのに、なぜか10点満点ではない。スペシャル問題があるのだ。課題をキチンとやってくればもちろん大丈夫なのだが、それ以外にも問題を出す。それも漢字でないことが多い。一番多いのは英単語だ。
 例えば「帽子」という漢字の書き取りのあと。「ハイ、ここでスペシャル問題です。帽子という英単語を漢字の下に書きなさい」というと、たいてい得意げに「どっち書けば良いの?」と聞く子がいる。「知ってりゃ、両方書いていいよ」というとHatとCapを書くのだが、意外にaだったかuだったかゴッチャになっている。
 魯迅の『故郷』に「鉛」という漢字が出てきたので、その時は「鉛の元素記号を書け」なんていうのも出題したことがある。Pbが出てこずにZnと答える生徒が多い。亜鉛はサプリなんかでよく見るから覚えているのだろう。他にも歴史の年号や同音異義の漢字を書かせたりする。スペシャルを入れて得点にするので、13点満点なんていう中途半端なことになってしまうが、10点以上は合格ね、なんていうと生徒は何だか得した気分になるらしい。
 そのうち本末転倒でスペシャル問題の予想ばかりしてくる子も出現するが、漢字テストの準備を意識させるというこちらの策略にまんまとはまってくれたと嬉しくなる。これには他にも狙いがあって、記憶の定着と知識の関連づけである。漢字を他の事柄と結びつけることによって、忘れにくくなったり、学びに広がりができたりする。
 もっとも、やっていることはただのお遊びなのである。