私は中学受験をしたことがないので、キミの感じている不安を実感することはできません。でも人間には想像力というものがあります。キミの落ち着かない気持ちを思いやることはできます。
　まだ小学生のキミにこんな試練を課すことには心苦しさを感じています。もちろん勉強はたくさんすべきだし、勉強は楽しいものでもあります。でも勉強は他人と競争するためにやるものではありません。自分の成長のため、社会の役に立つため、人類の進歩のため、勉強にはいろいろな目的があります。その中で「競争」の順位はうんと下の方にあるはずです。なのにキミには今、それが一番重い目的として感じられるのではないでしょうか。入試を行う中学の副校長がこんなことを言うのも申し訳ないのですが、勉強って何のためにやるんだろうということを時々は考えてみて下さい。
　キミの不安を取り除くことは今はできません。なぜなら不安は未来と結びついているからです。未来は誰にもわかりません。だから「大丈夫」なんていう励ましは、たいがいウソです。ただひとつ言えるのは、キミは不安を感じることのできるまともな人間だということだけです。
　もう入試まで１０日を切りました。だから、これまで十分に勉強してきた人も、足りなかったなぁと思っている人も、コセコセせずに残りのこの数日は楽しい勉強をしてみませんか。
　人間は好きなことをやっているときには、時間が経つのが早く感じられます。嫌なことも忘れられます。だからこれから入試までは思い切って大好きな勉強だけをやってみてはどうでしょう。理科の好きな人は図鑑をじっくり眺めてみる。社会の好きな人は歴史上の人物の伝記を読んでみる。国語の好きな人は、なかなか読めなかった小説を手に取ってみる。算数の好きな人はできなくて当たり前の難問に挑戦してみる。
　好きなことをやっていると脳みそが活発に働いて、思わぬ力が出てきます。心もリラックスしてきます。
　２月１日と３日。成城学園中学校で待っています。不安を脱ぎ捨てにやってきて下さい。