自由が丘にある進学塾に呼ばれて、学校説明にうかがった。青山学院と東海大高輪台と成城学園の三校が、大学附属共学校という切り口で、PRとパネルディスカッションをおこなうという趣向である。うちは初等学校が最初に作られたので、大学附属ではないんですけどね、という前置きは一応したのだが、世間から見れば同じようなものなのだろう。青学も東海もすばらしい教育をされていて、私も成城の魅力を一生懸命しゃべったつもりだが、内心はどこの学校に行っても生徒は幸せだよなぁと思ってしまう。塾の方も「三校にうかがって共通していると感じたのは、休み時間に生徒が笑いながら走っているという点です」とおっしゃっていた。ライバル校に勝つことを目指さなくてはいけない立場なのだろうが、どの学校もそれぞれにステキだと認めざるをえない。受験生それぞれの個性に合わせて一番ピッタリの学校を選んでほしい。それにしても平日の午前中にこういう会を開いて、ちゃんと保護者が集まるということにも驚いた。中学受験はまだまだ需要が大きいと言えそうだ。
 会が終わった後、保護者のひとりがお話にいらした。6月の学校見学会に参加して下さったそうである。その時のことを教えていただいた。
 「建物に鳥の巣らしきものがあったので、見ていたら高校二年の男子が話しかけてくれたんですが、そのまま30分くらいおしゃべりをしてしまいました。その生徒に面白い先生いる?と聞いたら石井先生だって言ってましたよ。S君という子でした」というような内容だった。S君という名前でピンときた。中3の時に担任をした生徒だ。部活も当時私が顧問をしていた水泳部に所属していた。だから私の名前を出したのだろう。成城学園中高の教師集団を見渡したとき、謙遜ではなく私は決して面白い教師ではない。
 それにしても名前まで覚えていらっしゃるということはよほど印象に残る対応をS君がしてくれたのだろう。確かに彼は学期末の面談などでも自分からよく話をした。ああいうコミュニケーションに長けている生徒は高校・大学とぐんぐん力を付けていく。知らない大人とキチンと話ができる高校生というのはカッコ良い。成城の良さはそういう生徒がたくさんいることだと言えそうだ。
 その日の夕方たまたま学内で部活帰りのS君に遭遇した。塾での一件を話したら「あ、覚えてる。Mさんですよね」「知らないよ。名前なんて聞いてないもん」周りの子が「お前、そんな偉いことしてんのぉ」とはやし立てる。S君の方もちゃんと名前を覚えていた。袖すり合うも多生の縁と言うが、縁だけではない。人の出会いにも能力がいるのだ。