「海の学校」の後班で生徒たちに二つの話をした。言い足りなかったことを付け加えながら内容を記しておきたい。

1.富望荘賞
 3日目の晩に、「お楽しみ会」があった。クラスごとに出し物をおこなうのだ。訓練の休憩時間などを利用して、各グループが練習を積んできた。ちょっとしたコントや、歌・ダンスなどが披露された。2位以下の賞は金・銀・銅だが、最優秀賞の名前はわたしが考えるようにと中1学年主任に指示された。そこで考えたのが、「富望荘賞」だ。ちょっとゴロが悪いところが気になるが、今年はこれしかないと思った。
 その理由を生徒たちに伝えたのだ。
 「富望荘は43年前に建てられました。残念ながら、老朽化と震災の影響とで宿泊することができなくなりました。今の高校2年生が最後の宿泊者です。海の学校を手伝いに来てくれたライフセービング部の中に何人かいますね。彼らが宿泊をした最後の生徒たちです。そしてついに今年、この建物を取り壊すことになりました。キミたちは富望荘を見る最後の中学生たちです。キミたちはシャワーを浴びたり、着替えをしたりという使い方しかしていないけれども、この建物はずっと海の学校を支えてくれてきました。
 キミたちのお父さんお母さんの中には卒業生がいると思いますが、みんなこの富望荘で海の学校を味わってきました。泣いたり、笑ったり、感動したり、たくさんの思い出をこの富望荘とともに作ってきました。そういうわけで今年のお楽しみ会の最優秀賞は富望荘賞と名付けます。明日、浜に出たらしっかりと富望荘を見ておいてください」
 できばえはともかく、やはりオリジナリティーのある出し物が得点を集め、橘組の女子が富望荘賞に選ばれた。

2.途切れぬ命
 最終日、表彰をおこなった。プールでの長距離泳(最長は2000m)、海での実習、救命の講習などのプログラムをすべて終了した生徒の中で、各組からコーチたちが選んだ4人に修了証を渡した。そのときこんな話をした。
 「海の学校の中心は命について学ぶことです。キミたちは今ここで生きて、いろいろなことを考えたり感じたりしているけれども、それができるのはなぜでしょう。
 キミたちはお父さん・お母さんから生まれた。お父さんたちもその親から生まれた。その前もずっとずっとその親から生まれてきた。110万年くらい前にさかのぼると人類の最初の祖先が生まれるけど、その時にもキミたちと直接に血のつながった人が必ず存在した。600万年くらい前になると、もうサルと人類の区別がなくなるらしいが、その時でさえ、キミたちと命がつながっている生物が存在した。さらにもっともっと昔、海の中で最初の生命が誕生したのが40億年くらい前らしい。そのときからキミたちの命は一度も途切れたことはない。必ず誰かが命をつないできた。気の遠くなるほどの時間キミたちの命は途切れたことはない。キミたちは12~13歳だけど、つながってきた命を考えたら40億13歳と言っても良いくらいだ。そのくらい大切な命だということをわかっておいてほしい。
 キミたちは気軽に友達に「死ね」っていうことがあるよね。本当にそう思って言ってるわけではないだろうけど、それがどんな言葉なのか考える必要がありそうだ。海の学校で命について学んだ人にとっては重い言葉になったはずだ。これからも使っちゃう人がいるだろうけど、そしたら「お前、海の学校で何学んだんだよぉ?」って言ってあげな。
 今日で、富浦での海の学校は一区切りです。でも富浦でだけ命のことを考えたり学んだりしても意味はありません。それはずっと続くものです。海の学校は一生終わりません。