今年は国語Ⅱという科目を中3の竹組で2時間だけ持っている。たくさんの授業数を抱えていた一昨年までは、持ち時間が減ったら嬉しいだろうと想像していた。しかし実際そうなってみると、自分が教師であるという実感がなくなって妙な感じだ。しかも国語Ⅱは「知識と技術」という眼目でなりたっている科目なので、一般的な国語の授業と比べると生徒に考えさせたり対話したりということは少なく、こちらが講義する形式となりがちだ。だから個々の生徒の特徴や反応をつかむチャンスはあまりない。
 国語Ⅱの目標のひとつは古典に慣れることである。年間通して扱っている。毎回の定期テストでは暗唱も課題にしている。1学期中間までは「いろは歌」「枕草子冒頭」「源氏物語冒頭」が暗唱の課題である。授業のはじめなどに練習をすることがある。暗唱する文を黒板に書き、ちょっとずつ言葉を消していく。「はるは◯◯やうやう◯◯なりゆく◯◯・・・」なんていう具合だ。空欄をだんだん増やしながら3~4回全員で朗読する。
 竹組にはこれをやるときにクッキリ大きな声を出してくれる女子生徒がいる。クラスによってはボソボソ言うだけで何だかガッカリしてしまうのだが、彼女の声を聞くと今年は良いクラスに当たったなぁと嬉しくなる。ちょっとしたことで教師の気分も変わってしまうのだ。そして彼女の声に引きずられるのか他の生徒もしっかり読んでいる。本当にありがたい。
 若い頃ロックコンサートによく行った。レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、グランド・ファンク・レイルロードなんていうハードなバンドに夢中だった。そのころロック系の雑誌にこんな記事が載っていた。「外タレは関西のライブの方が東京のより喜ぶ。関西のお客の方がノリがよいので、力が入るのだ」。今では日本中どこでも同じような状況だろうが、まだまだロックファンも手探りの時代だったのだ。
 教師も同じだ。生徒の反応が良ければ力が入るに決まっている。バンドとファンが一緒になってコンサートを盛り上げるように、教師と生徒の相互作用で授業が充実すると素晴らしい時間となる。教師に力を出させる生徒がいるクラスは幸せだ。お得だ。
 さっき理科実験室の前を通ったら歓声が聞こえた。覗いてみるとどうやら中2のクラスが水の電気分解の実験をやっているらしい。教卓で先生が試験管に集めた気体に火をつける。その都度「オー」「ウワッ」などという反応が上がっている。あの声が教師を頑張らせるのだ。