職員室の茶飲み場のテーブルの上に、20個の貴重品袋が並ぶ。健康診断に回る間、教室が空っぽになってしまうので、係が集めて置きに来たのだ。学校で一律に貴重品袋は用意していない。クラスによって様々な物を担任が用意してくる。全クラス分並ぶとなかなかカラフルな光景だ。家庭科の教員に縫ってもらった袋もあれば、クラス費でナップザックを買っているところもある。昨年度のクラスのをそのまま使っているのか、クラス名にガムテープが貼られ、違うクラス名が書き込まれている物もある。「この3クラスの袋は○○先生の高校生の娘さんが縫ってくれたんですよ」などという、それこそ貴重な袋まである。スーパーの紙袋もあるし、今年は袋ではなく貴重品箱も登場した。
 こういうものは予算化して同じ物をそろえたっていいのだが、誰もそんなことを言い出さない。何だか担任の個性が出ているようで面白い。パッと見て、うちのクラスの貴重品袋だとわかる点もバラバラな方が優れている。
 袋がパンパンに膨れているクラスもあれば、スカスカのクラスもある。普通に考えれば、パンパンのクラスの方が几帳面に預けているから優秀なのだが、一概にそうとも言えない。だらしなくてスカスカの場合もあるのだが、「貴重品を学校に持ってくるな」という担任の指導の成果としてのスカスカな袋ということもあるのだ。
 貴重品を集めるのはクラスごとだが、返却は健康診断が終わった生徒が各自で取りに来るシステムにしている。
「体重5キロも増えた」「××君に身長抜かれた」「今からディズニー行くんだ」「視力やばい」いろいろなことを言いながら自分の財布や携帯電話をピックアップして行く。貴重品の中身はやはりスマホが一番多いようだ。財布・定期・スマホの3点セットをキチンとひとつのポーチに入れて預けているしっかり者もいる。次々とはけていくが、最後にポツンと携帯がひとつ残されていた。預けたのを忘れて帰ってしまったのかもしれない。寂しく担任に引き取られていった。
 それぞれの持ち場で働いてくれた保健委員も腕章を返しにやってきた。ジュース1本のご褒美でよくやってくれる。委員じゃないのに、遅刻した保健委員の代わりに急きょ働いてくれた男子もいる。
 午前中は女子、午後は男子が受診した。以前は健康診断に向けて無理なダイエットをおこなう生徒がいることもあった。最近は聞かなくなったが、本末転倒にならないように気をつけたい。でも本当に気になっているのは6月の職員健康診断で自分がメタボをつきつけられないかという方だ。

 貴重品袋を眺めているだけで、クラスの顔が見えてくる。