入学式翌日、1~3年生それぞれの学年集会をおこなった。学年ごとの課題や目標を副校長・教務部長・生活部長・学年主任が話すのだが、具体的で大事な話は私以外の3人がおこない、例によって私はどうでもいい話をさせてもらった。各学年にあわせて話した部分は省略して、3学年共通して話した内容の概略を書いておこうかと思う。

 4月3日の朝日新聞朝刊に、ある表が掲載された。東日本大震災で各国・各地域がたくさんの義援金を送ってくれたが、そのランキングの表である。ベスト20が示されていた。その表で私は3つ驚いたことがあった。
 第一位はアメリカだがこれに驚きはない。世界一の金持ち国だし、日本との関わりも深い。驚きのひとつ目は第二位、しかもほとんどアメリカと同額の寄付をしてくれたのが台湾であることだ。台湾は日本より小さな島国だし、かつては日本が植民地にして迷惑をかけた歴史もある。中国との関係で表向きの国交もない。そんな台湾からの義援金が多かったことは聞いてはいたが、これほどとは思っていなかった。
 ふたつ目の驚きは普段あまりなじみのない国が上位に入っていることだ。4位のオマーン、6位のアルジェリアだ。どちらも、どこにあるかさえ知らない生徒もいるだろう。オマーンはアラビア半島の先の方、アルジェリアは北アフリカだ。なんでそんな国が多額の寄付をしてくれたのかと調べてみた。オマーンは産油国で豊かだということもあるだろうが、現国王のおじいさんの奥さんが日本人だということも関係ありそうだ。アルジェリアは注意深くニュースなどを見ている生徒は覚えているかもしれないが、今年の1月に大変な事件が起きた。天然ガスのプラントで反政府勢力によって大勢の外国人が誘拐され人質となり、残念ながらたくさんの命が奪われた。その中で一番多かったのが日本人で、10名の方が亡くなっている。これはいかにたくさんの日本人がアルジェリアで働いているかということも示している。つまり我々が知らないだけで、オマーンともアルジェリアとも、日本は深い結びつきがあるということなのだ。
 みっつ目の驚きは最貧国と呼ばれる国からもたくさんの支援が送られていたということだ。バングラデシュやアフガニスタンなどだが、食べるものにも事欠くことのあるような国の人々が世界第三位の金持ち国である日本を救うためにどんな気持ちで寄付をしてくれたのだろうか。

 今日こんな話をしたのにはわけがある。キミたちの中には、自分の周り半径2メートルくらいのことにしか気持ちが広がらない人がいる。友達や家族のことぐらいにしか興味が広がらない人のことだ。そしてそういう人はたいがい勉強が苦手だ。友達や家族はもちろん大事だ。でもそこで終わってはいけない。キミたちにはその半径をどんどんと広げていってもらいたい。そう思って、日本人は遠くの国の人たちとつながっているんだよという話をしたかったのだ。
 クラスに気持ちを広げられるか。成城学園全体に興味を広げられるか。さらには日本という範囲に、世界という範囲に、宇宙という範囲に気持ちを持って行くことができるかということだ。それのできる人、つまり自分から遠いところに興味を持てる人は必ず勉強が進んで行く。外国って言ったらアメリカしか思い浮かばないようではダメだ。
 空間的なことだけではない。時間的なこと、精神的なことでも同じだ。今のこと、今日のことにしか興味を持てないのでは進歩はない。明日のこと、1年後のこと、高校でのこと、大学でのこと、もっともっと先のこと。自分が死んださらに先のことにまで想像を広げる。過去も同じだ。自分が生まれた頃のこと、百年前、千年前のこと。そうやって興味を遠くに飛ばしていくのが勉強だ。

 心の半径を、興味の半径を中学校で大きく広げていってほしい。