「卒業記念にダンス発表会をやりたいから、責任者になってよ」

 ちょうど1年前の今頃、中3担任をやっていた私に男子生徒が言いにきた。仲良しとダンスユニットを作っているらしい。いくつかのチームを集めて発表会を立ち上げようというのだ。自分たちのやりたいことを実現するために積極的に行動する生徒にはなるべくつきあいたいと思っているので、引き受けた。
 ちょうどよい大きさのミュージックホールのA教室は先約で埋まっていたので、場所が問題だったが、アトリエの机を寄せてステージにすることを美術科が認めてくれて、仮設のステージができあがった。仲良しチームや部活動チームなど入れ替わり立ち替わり出演する楽しい会となった。
 私が中高生の頃も、バンドをやる男子はそれなりにいた。私もローリングストーンズのコピーなんかをやっていた。しかし当時ダンスをやろうなんていう男子生徒が周りにいた記憶はない。人前で踊れなんて言われたら相当な反発があったはずだ。それがマスコミの影響なのか、男子も踊るのが当たり前の時代になったようだ。ダンス部やバトントワラー部にも男子部員が入ったっておかしくはないのだろう。
 その日は、たいへんな盛り上がりではあったが「見てるとき石ちゃん、おっかない顔してたよ」と後で言われた。「だって、みんなヘタなんだもん。もっと練習してから出ろよ」
 実は私、けっこうなダンスファンなのである。自分じゃ全く動けないが、見る方はバレエからヒップホップ、フラメンコにフラまで日本人のおっさんとしてはかなり見ている方だと思う。きっかけはアルザス校への赴任であった。あちらにいる間に、パリオペラ座やロンドンのコヴェントガーデンなど本場のバレエにかよった。近くのストラスブールにはいろんなダンスカンパニーが公演でやってきた。フランス語がろくにできない私には、言葉のいらないダンス(そしてサーカス)は恰好の娯楽となった。だから、ヘタなダンスを見ると顔に出てしまうのだろう。失礼いたしました。
 いずれにしても非言語的な活動というのは、身体や本能に直結しているから生徒のナマの姿を見ることができて意義深いものではある。

 体育の授業にもダンスがある。今週、最後の研修(ホームルーム)の時間を使って、講堂で発表会があった。こちらは中2女子による創作ダンスだ。私が就職した何十年か前にも女子にはダンスがあって、指導する先生の名前から「シイナダンス」と呼ばれていた。一時期カリキュラムからなくなっていたのではないかと思うが、文科省も今は取り入れろという。
 今年のダンスはなかなか良く工夫されていたし、個人の技というよりは全体の動きが重視されているから、かわいらしく、魅力的なパフォーマンスだった。お互いに声援を掛け合っていたのも感じが良かった。保護者も数十人くらいいらしていたが、もっと大勢に見ていただきたかった。
 男子は講堂の後ろの方で見るだけの1時間だったが、踊りたいと思っている生徒も大勢いたのではないだろうか。体育科も女子だけにダンスをやらせている場合じゃないかもよ。