第二回の学校説明会を行った。講堂のロビーには展示コーナーが設けられている。美術や書道の作品。オーストラリア短期留学に参加した生徒の作ったポスター。教科書や校内出版物。古い時代の学園や成城街の写真。生徒たちのノートのコピー・・・。

 その中に私の「宝物」のコピーがぶら下げられている。3年前に担任したクラス梅組の日直日誌だ。 大抵の学校には日直という物があって、やはり大抵のクラスでは日直日誌を書かせているだろう。私も漫然とそれをやってきた。何となく教師になった頃の周りのやり方に合わせて日直は二人、朝礼で日直日誌を渡して、帰るときに提出させる。そんなやり方で続けてきた。
 あるとき若い同僚と雑談をしているとき、彼が言った一言がその習慣を打ち破る力となった。「うちのクラスでは日直に責任を持たせるため、一人でやらせてんですよ。日直日誌も家で書かせてる」
 梅組を持ったとき、真似することにした。特に日直日誌は学校での出来事に限らず好きなことをたくさん書きなさい、と家に持ち帰らせた。
 はじめは生徒も小学校の頃の習慣に従って、1日の時間割と感想を少しというスタイルが見受けられたが、10人も過ぎる頃からどんどん変わっていった。絵を描く子、迷路を作る子、みんなへの質問を書く子、シールを貼る子・・・どんどん拡大していった。5ページ書く子、10ページ書く子、悩みを打ち明ける子。そのうち誰かが書いたことにさらに次の子がコメントを書き込み、その反論が載り・・・と有機的なノートになっていった。ぼろくなった日直日誌をテープで修理してくれる子、日直日誌の残りページが少なくなったと、自腹で新しいノートを買ってくる子・・・そして1年分、梅組5冊の日直日誌は私の宝物になった。

 工夫とも言えないほどのほんの少しの変化。日直は一人で、家で日誌を書く。たったこれだけの工夫が生徒の人間関係を変えていく。クラスとの関わりを変えていく。日々の学校生活を変えていく。そのヒントをくれた若い同僚と私の意図した以上に楽しんでくれた梅組のみんなに感謝したい。