前回、3年前に担任した梅組のことを書いたので、もう一つ彼らの思い出を書きたい。

 ある日の国語の授業、といっても日にちはハッキリしているのだが、「あっ、今日オレ誕生日だ」と口走ってしまったことがある。何か別の話の流れでそう言っただけで、特に意図はなかったし、言ったことも忘れていた。しかしその日の終礼で忘れられない出来事が起きた。
 黒板には大きく「お誕生日おめでとう」の文字が何色ものチョークで華やかに書かれている。Happy Birthday to You の合唱。そして代表の生徒が色紙を渡してくれた。それまでにも何度か生徒に誕生日を祝ってもらったことはあったが、このときの感動は格別だった。祝ってもらったことはもちろん嬉しかったのだが、それ以上に心を揺さぶられたのは彼らの機動力・組織力に対してだ。
 私が「今日は誕生日だ」と言ったのは3時間目。それから終礼までの間に彼らは動いた。色紙を誰かが買いに走ったのだろうが、どう考えてもみんなにそれを回して書いてもらう時間はない。困ったとき誰かが思いついたのだろう。小さな紙を貼れば良いのだと。だからその色紙には40枚の紙が貼られている。その一枚一枚に生徒のコメントが書かれているのだ。アイディアを数時間で形にする組織力と実行力。紙を用意する子、切る子、配る子、集める子、貼る子・・・きっと誰かが瞬発的に強力なリーダーになったのだろう。その指示に従ってみんなが動いた。担任の誕生祝いなんていう、どうでもいい出来事が梅組という集団のクリアすべき命題となり、みんなで解決していった。

 そういえばこんなこともあった。終礼に向かうために職員室を出ようとする私に何人かの梅組の生徒が話をしにきたのだ。それも今しなくてはならないような大切な話ではなかった。彼らの真の目的は私の足止めであったのだ。6時間目が終わって、きれいに黒板を拭き、そこに「おめでとう」のデザインをしなくてはならない。その時間稼ぎのために送り込まれてきた斥候部隊だったのだ。やはりすごい組織力だ。

 私の誕生日は6月だ。出会ってからたった2ヶ月で彼らはそんな集団に成長していた。梅組のみんな。オレはキミたちが想像している何倍も何十倍もあの日、感動していたんだよ。この色紙も私の宝物である。