2学期最後の行事である「合唱コンクール」が終わった。

 毎年思うのだが、人の声には凄まじい力がある。合唱コンクールの後しばらくの間、何の前触れもなく生徒の歌声が頭をよぎることがあるのだ。不思議なのは上手な合唱や気に入った曲だけを思い出すというわけではないことだ。声の力というのは人間の脳みそを直撃するようだ。

 校長室のある本校舎1階には中学3年生の教室が並んでいる。この2週間ほど朝8時には自主練が始まっていた。昼休みに、そして放課後にもあちこちから歌声が聞こえてきた。おそらく竹組が歌う「さくら」を学校中で一番回数多く聞いた教師は私だと思う。中学校で最後の合唱だという思いからか、3年生の意気込みはすごい。理屈から言えば、週に2時間音楽の授業がある2年生の方が1時間しかない3年生より有利なはずだが、そんなハンデは全く感じさせない。そして何十回もお互いの声を浴び合うのだ。仲が深まっていかないはずがない。休み時間に教室で合唱が響いているなんてちょいと良い風景ではないか。
 機械で多重録音でもしない限り、合唱というのはひとりではできない。ここがミソだ。40人のクラスがどのようにまとまっていくのかが勝負なのだ。ましてや合唱部ではない。歌に興味のない子、音楽の苦手な子がいて当たり前だ。「気持ちをひとつにして」などと言葉で言うのはたやすいが、本番のたった1回のチャンスにそれができる段階にまで鍛えてきたクラスがいくつもあった。音楽の教師たちも情熱を持って指導してきた。歌い終わった瞬間、舞台の上を満足げな雰囲気が流れることがたまにある。やったぁ・・・恍惚とした表情の生徒たち。あれに代えられる幸福が他にあるだろうか。
 結果としては「自分らしく」を歌った桧組が金賞に輝いた。銀賞だったクラス、銅賞だったクラスは喜びよりも悔しさの方が強いようだが、すばらしい歌声だと認められたことを誇りに思ってほしい。特に2年生で唯一入賞した萩組(「ひろい世界へ」)は立派だった。

 余談だが、教職員の有志もオマケとして合唱に参加している。今年は「アニー・ローリー」と「ヘビー・ローテーション」の2曲だったが、生徒のように上手には歌えないので、正直言って「お笑いコーナー」である。生徒が下校した後の時間に数回集まって練習してきた。音楽科に言わせると生徒より手がかかるそうである。うれしかったのは今年7月に人事異動で中学にやってきたばかりの事務長が参加してくれたことだ。生徒も教師も事務も行事を楽しみながら仲間になっていくのだ。