事務室に顔を出したら、知っている顔がいた。かつて担任した女性がお子さんの入学手続きにいらしていたのだ。学校説明会では何度か見かけたので、もしかしたらという期待はあったが、現実のものになるとやはり感慨深い。そのクラスからはすでに中3にお子さんを通わせて下さっている方もいらっしゃる。40人中2人だから5%。まあまあの回帰率だろう。この学校の良いところも悪いところもハッキリと知っている人が大切なお子さんを預ける決断をしてくれたのだ。こんなに嬉しいことはない。成城学園は100年近い歴史があるので、3世代通われているなどという話も聞く。公立と違って教員の転勤がないから、親子で同じ教師に習うということも起きてくる。深くて不思議な縁が作られていく。

 成城学園中学校に就職した年、驚いたことがたくさんあった。小学校から大学まで公立で過ごした私は、おそらく多くの方が思っているのとさして変わりのないイメージを成城学園に抱いていた。裕福な家庭の子女が通う、いわゆるお坊ちゃん・お嬢ちゃん学校だと。ところがどっこい、「海の学校」「山の学校」に代表されるとんでもなく厳しい宿泊行事や、中1に20km走らせてしまうマラソン大会(現在は10km)など、どう考えても体育会系の学校だったのだ。そしてもう一つ驚いたのが、入学試験だった。
 どうせ私立学校などというのは、いろんなしがらみがあって、卒業生だの、お偉いさんだの、寄付金だのと、ややこしい話がいっぱい絡み合って、校長や幹部の教員が密室で合格者を決めるのだろうと予想していたのだ。ところがところが、あまりにクリーンだったのだ。全教員の前に得点の一覧表が示され、はい何点までが合格で良いですか。まとめてしまえばそんな感じなのだ。単純明快。しかし、不合格者の中には当然、兄弟が学園に通っている子や卒業生の子弟もけっこういることになる。えーっ!もっと卒業生を大事にしなくていいのか?!とびっくりしたが、いや、この潔さこそ成城学園中学校なんだ、と思うことにした。
 というわけで、卒業生がお子さんを入学させて下さることに何の手助けもできない代わりに、何のやましさも感じずに済む。だから、純粋にありがたいという気持ちでいっぱいである。卒業生を大事にすることと入試で手心を加えることとは全く別物なのだ。他の学校が入試の不正で報道されると、潔癖症の学校に勤めているありがたさを感じる。

 時間があるというので、手続きが終わった後、校長室でしばらくおしゃべりをした。お子さんの受験を通して親として成長したことや親の側から見た中学受験の実態などいろいろと教えてもらい、あっという間に時間が経ってしまった。
 生徒・学生として成城学園を楽しんでくれた彼女が、親としてこの学校に満足してくれるのか。歯に衣着せぬ物言いをする彼女にバシバシと問題点を指摘してもらいながら、頑張りたいと思っている。緊張の6年間が始まる。