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  • 2015.04.07

    特別編 石井校長 出たとこ勝負③ 2015年度中学校入学式式辞

    出たとこ勝負

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[挨拶部分省略]
 こういう厳かな場では、歴史上の偉人ですとか、高名な哲学者の名言などを取り上げて、そこから導き出される教訓をお話しすることが一般的なようですが、私にはそのような知識がありませんので、テレビで見聞きした話をしたいと思います。
 所ジョージさんというタレントを知っていますね。私は年齢も近いし、あの人生を楽しんでいる感じが魅力的で、テレビに出ている有名人の中ではとても好きな人です。ある時、所さんがテレビ番組でこんなことを言っていました。それは「幸せって、面倒くさいことをすることなんじゃないの」というものです。もうだいぶ前のことなので、言葉通りではないかもしれませんが、そんな意味のことを言っていました。所さんは自動車が好きで、ただ買ったり、走らせたりというだけではなくて、自分で改造したり、修理したりすることを楽しんでいるそうです。気に入った古い車を手に入れて、例えば部品を海外から調達したり、さらに手に入らない場合は自分で作ったりして、何か月もかけて修理をしていくのだそうです。考えてみたらとても面倒くさいことです。しかし、それが楽しい。そしていよいよ車が完成したときには大きな幸せを感じることができる。そういう流れで言った言葉だったと記憶しています。
 心に残ったので、いぜん私はこのことをクラス通信か何かに書いたこともありました。いままた新入生の皆さんにこの言葉を紹介するのにはわけがあります。キミたちの先輩である中学生や高校生を見ていると、この「面倒くさい」というのが学校生活の最も重要なポイントなのではないかと思うからです。

 学校という場所は面倒くさいことの宝庫です。楽しい運動会や文化祭はそれを支える生徒の実行委員がいます。本番の何か月も前から遅い時間まで準備をしたり、問題を解決する話し合いをしたりと大変な役割を担っています。クラスメイトや先生から文句を言われることもあります。本当に面倒くさい立場です。しかしそれを乗り越えてすばらしい行事が成功したときには実行委員全員で喜びを分かち合うことができます。本当に幸せな瞬間です。
 人間関係も面倒くさいことのひとつです。クラスの仲間に気を遣わなくてはいけない。ケンカをしてつらい気持ちになることもあります。上級生とどう接したらいいか迷うことだってあります。しかしそういう面倒くさいことを乗り越えて、気持ちが通じる友達ができた時、そしてその輪が広がっていった時、しみじみとした幸せが湧きあがってきます。
 そして何よりも面倒くさいのは勉強です。勉強はだんだん易しくはなりません。必ず難しい方、複雑な方に進んで行きます。次から次へとやらなくてはならないことが増えていきます。
 キミたちの中にはゲームをやる人がたくさんいるのではないかと思います。そういう人に尋ねますが、簡単ですぐに勝ってしまうゲームを何時間も何日もやる気がしますか?スポーツを頑張っている人に尋ねますが、幼稚園児と対戦して勝ってうれしいと感じますか?勉強の喜びというのもそれと似ています。なかなかできないゲームだからやっていて面白い。強い相手だから試合で全力を出すことができる。勉強も難しいからこそ頑張った時に喜びが湧いてくるものなのです。できないと思っていた数式が解けた時。自分の知らなかった世の中の仕組みに気付いた時。外国人の先生に自分の言葉が通じた時。面倒くさい勉強の価値を知るのです。
勉強ほど面白いものはありません。なぜなら答えの出ていない問いが無限にあるからです。大学教授が束になってかかっても解けない問題がたくさんあります。その答えに迫るのはキミたちかもしれません。

 よく「あの人は能力がある」などという言い方を聞きますが、ごく一部の天才を除いて、中高生にとってだいじな能力は1つだけだと私は信じています。それは面倒くさい気持ちと戦う能力です。面倒くさい気持ちに打ち勝つ能力です。面倒くさい気持ちを楽しむ能力です。この能力を身に着けられるかどうか。それが中学校生活を大きく変えていきます。
 面倒くさいという気持ちならば、私はキミたちに負けません。よく校長室でひとり「あー面倒くせー」って呟いています。ですから一緒に戦いましょう。
 新入生のみなさん。これから中学校で面倒なことにたくさん挑戦してください。面倒なことを吹っ飛ばして下さい。面倒なことを味わってください。そうすれば必ず幸せになれます。所さんはウソをつきません。
[後略]