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  • 2017.01.16

    言葉の筋トレ14 飽きるところから新しい料理は生まれる

    言葉の筋トレ 石井弘之

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第14回

飽きるところから新しい料理は生まれる

北大路魯山人
(この言葉は西棟4階にあります)

 新年おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

 以前アルザス校の保健室にいらした古賀アヤ子さんからこんな話を聞いたことがある。古賀さんは特別支援学級で重度の精神疾患のある子供を担当していたことがあるそうだが、そういう患者の中には飽きることを知らない子供がいると言うのだ。壁に泥を塗る作業をさせると、驚くほど丁寧に何時間でも何日でも寝食を忘れてやり続けてしまう。「飽きるっていうのはね、人間にとって、ホントに大事な能力なのよ」とおっしゃっていた。
 赤瀬川源平だったか「老人力」という概念が提唱されたことがあるが、歳とることを何かができなくなると考えるのではなく、例えば「物忘れができるようになった」「ヨボヨボ歩けるようになった」ととらえてみると新たな視界が開けるというのだ。「飽きる」という一般的にはマイナスと見られる感情も次へのステップを内包した革新的感情としてとらえ直すと、その価値が見えてくる。
 魯山人は「美食倶楽部」や料亭「星岡茶寮」で有名な日本料理界の権威だが、幅広いジャンルで活躍した芸術家である。料理はもちろん、それを盛る器を作る陶芸の世界でも次々と革新的な仕事をしていった。その原動力が「飽きる」という感覚にあったのかもしれない。
 「飽きる」ことを受け入れるには勇気が必要だ。ひとつ場所に留まらない勇気。それまでの自分自身を否定する勇気。変化し続ける勇気。マイナスをプラスにとらえ直す勇気。その勇気が新たな芸術を生んでゆく。
 そういえば、かつて中学生の作文を添削している時「悪魔で闘おうと頑張った」という文章に出くわしたことがある。おわかりだろうか。「飽くまで」と書くべきところをこう書いてしまったのだ。やり続ける決意と「飽きる」という文字が心の中で合致しなかったのかもしれない。そう考えると悪魔を使って地獄に落ちても闘い抜く様が思い浮かんで、何だか悪くない気もする。

クイズ

むら草に草の名はもし備はらばなぞしも花の咲くに咲くらむ
Sator Arepo Tenet Opera Rotas

この二つの文はどちらも東棟4階にありますが、共通した趣向によって書かれています。それはどのような趣向でしょうか?答えは次回の「言葉の筋トレ」で紹介します。在籍している生徒諸君で答えがわかった人は校長室に言いに来てください。豪華賞品は無理ですが、ショボイ賞品を先着2~3名に用意しておきます。インターネットで調べればすぐにわかるよ。