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  • 2016.09.13

    言葉の筋トレ 8 If you can dream it, you can do it. 夢見ることができれば、それは実現できる。

    言葉の筋トレ 石井弘之

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第8回

If you can dream it, you can do it.
夢見ることができれば、それは実現できる

Walt Disney
(この言葉は東棟3階にあります)

 まずは告白から。「わたくし一度もディズニーランドに行ったことがありません」
 中高生諸君は、そんな人間がこの世にいていいのか、と信じられない思いだろうが、ここにいるのだ。別に嫌っているわけではない。行くチャンスがなかったのだ。26歳の時に開園したと思うが、あまりに混雑しているという報道ばかりで、怖気づいて様子を見ているうちにアルザス校に赴任することになった。帰国した時には40歳を超えて、今さら遊園地でもなかろうという年齢になり、時が過ぎてしまった。きっとこのままディズニーランドを知らずに朽ち果てていくのだろう。
 ディズニーのアニメは子供のころホントによく見た。もちろん白黒テレビでだった。アメリカ文化に対する漠然とした親近感が植えつけられたのはそこが出発点だろう。
 ウォルト・ディズニーという人については評論『ディズニーランドという聖地』が中学の教科書に掲載されていたことがあり、2年ほど授業をしたので、その時に集中して調べた。
 明るく楽しい作品のイメージとは裏腹に、彼は政治的にはかなりのタカ派で、ハリウッドの労働者に対しては強圧的だったらしい。人種差別・女性蔑視という点でも存命中はずいぶんと批判されていた。それは当時の新聞などからも明らかだ。実際そういう人物だったんだろうなぁと思うが、時代や生まれを考慮に入れたらやむを得ない気もする。シカゴ生まれのミズーリ育ち。20世紀になったばかりのアメリカ中部の農場で育って、白人至上主義者にならない方がどうかしている。他の考え方に出会うチャンスさえなかったはずだ。
If you can dream it, you can do it.  夢見ることができれば、それは実現できる。
 一代で築いた富と名声を独り占めするのがアメリカンドリームだ。アニメそのままの明るく正しく公平な善人である方がよっぽど嘘っぽい。
 ディズニーのまねをして、他人を見下す人間になれ、なんてもちろん言う気はない。でも、なりふりかまわず自分の夢を実現する鉄の意志と、それを誰もが愛する夢の国でふんわり覆い隠す賢さは学んでも学びきれないほど大きい。白人至上主義者が作った夢の楽園は、今や黄色や黒の肌を持った老若男女が疑うことなく参拝し続ける聖地となった。