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  • 2018.04.10

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 高等学校入学宣誓の会 式辞

    出たとこ勝負

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(挨拶部分は省略)
 3年前の夏に、イギリスのクライスト・カレッジ・ブレコンという高校のラグビーチームが成城学園を訪れました。日本で何試合かおこなう対戦相手の1つに成城学園高校のチームが選ばれたからです。試合は成城学園第2グラウンドで行われました。白熱した試合でしたが、結果は相手チームの勝利で終わりました。試合をおこなっただけではなく、相手チームの選手が成城学園の選手の家にホームステイすることになり、交流を深めることもできました。
 試合をおこなう数か月前にその学校の副校長をしているスペンサー先生という方が下見にいらしたのですが、成城学園を大変気に入って下さり、成城学園の生徒の語学留学を引き受けたいというお申し出もいただいています。私としてもぜひ姉妹校になりたいと考えています。
 そのスペンサー先生がひと月ほど前に再び日本を訪れ、奥様と一緒に成城学園にも足を運んで下さいました。今はマレーシアに学校を作ろうとしているのだそうです。
 前回いらしたときはまだ古い校舎の時代でしたので、新校舎をご覧になりたいということで、放課後に私が案内をいたしました。一通り見学を終えて校長室に戻ったあと、スペンサー先生と奥様とがこんな会話をしているのが耳に入りました。「この学校で学んでいる生徒たちは幸せだねぇ」というものです。
 私はてっきり、新しい校舎のことを誉めて下さっているのだろうと思ったのですが、聞いているとどうやらそうではないらしい。スペンサー先生が誉めて下さっていたのは、成城学園の生徒はそれぞれ自分のやりたいことを見つけて、それを実行している。そしてその生徒の活動を先生方がサポートしているという点でした。たとえばサイエンス・ゾーンを回っている時には、科学部の生徒が活動していました。彼らが自分たちで卵から孵化させたうずらを見せてくれました。どうやって育てているのかという話もしてくれました。また、どうやら危険な薬品らしいのですが、それを使った実験を理科助手の方の力を借りながらおこなってもいました。
 グローバル・ゾーンではネイティブの先生と何かを相談している生徒がいましたし、ホームルーム教室で試合のビデオを見ている運動部の生徒達もいました。
 また、書道室では書道部が活動している一方で、授業時間内で作品が最後まで仕上がらなかった生徒が真剣な様子で課題に取り組んでもいました。そこでも書道の先生が指導に当たっていました。
校舎の前の坂道では確か陸上部だったと思いますが、顧問の先生から指導を受けている姿を見ることもできました。
 私にとっては何でもない日常の風景だったのですが、お二人はそういうバラエティに富んだ活動が展開できる成城学園の環境を「幸せ」と言って下さったようです。この学校では本当に様々な形で、ひとりひとりの生徒が自分のやりたいことに取り組んでいる。同じ学校に通いながら他の人と同じ3年間を送るという人はいないわけです。おそらく他の学校と比べてそのバラエティの度合いが大きい学校だと言えそうです。

 みなさんはこれから成城学園高等学校に通うと思っていますよね。でも成城学園というひとつの学校があるように私には思えないのです。それぞれが違う教室に入り、違う座席に座る。違う先生から授業を受け、違うお昼ご飯を食べる。違う友達としゃべり、違う部活で汗を流す。頭の中で考えていることも全く違う。3年間の大きな流れは同じでも、日々過ごしている時間はひとりひとり違っている。ですから成城学園というのは、ひとりひとりの時間をまとめて束ねたものなのではないか。そんな気がしています。
 成城学園が始めからあるのではない。成城学園に通うのではない。みなさんが成城学園を作るんです。あなたがたの毎日の活動。その積み重ね。生徒全員の、教職員全員の毎日の努力と経験。そのひとつひとつをまとめたもの。それが成城学園になるのです。学校とはそういうものだと私は感じています。もともと「学校がある」のではなく「学校になる」ものなのです。あるいはみなさんが「学校にする」ものなのです。個性尊重とはそういうものです。ひとりひとりの全く違った出会い。全く違った経験。全く違った喜び。それを成城学園という大きな流れにまとめて未来に運んでいく。それがみなさんの高校生活なんだと私は思っています。
 スペンサーご夫妻は短時間の見学の中で、そういうことを読み取ってくださったのではないかと私は喜んでいます。

 みなさんにお願いがあります。自分だけの成城学園を作ってください。周りの人それぞれの成城学園を大切にしてください。新入生285人。ひとりひとりの成城学園が始まります。
(挨拶部分は省略)