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  • 2018.04.07

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 中学校入学式 式辞

    出たとこ勝負

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(挨拶部分は省略)
 3月に初等学校の卒業式がおこなわれましたが、私も参列いたしました。そこでご挨拶された保護者の代表の方のお話がとても素敵で印象に残りました。そのお話の中には、何千万年か前、巨大な隕石の衝突によって恐竜は滅びたけれども、その後に哺乳類がなぜ生き延びることができたのかという質問がありました。それは哺乳類の持つ柔軟性だということなのですが、今日は、その時のスピーチを聞きながら私が思い出していた、ある小説を紹介することから話を始めようかと思います。

 それは伊坂幸太郎という作家の書いた「終末のフール」という作品です。ちょっと奇妙な状況設定で、数年後に巨大な隕石が地球に衝突することがわかり、すなわち人類はかつての恐竜のように滅亡するだろうという時代を描いています。
 人類が滅びるなんていうことがわかったら、世界中がとんでもないパニックになるわけですが、その様子はこの小説にはほとんど描かれていません。
希望を失って自殺する人や自棄になって殺し合いをする人たちがいたことには触れられていますが、ほんの少しです。
 世の中の大混乱がひと段落して、少し落ち着きを取り戻した頃の様子が描かれています。
 数年後には死んでしまうのがわかっている時に、子どもを産むべきかどうか悩む夫婦。対戦相手もいないのにそれまでと変わらずに練習に励むボクサー。本当の親子ではないのに、母親としての演技を続けている女優。妻を殺した相手に今さら復讐を果たそうとする社長。手に入りにくくなった食料品を何とか仕入れようとするスーパーマーケットの店長。そういう人たちの姿が温かい文章で綴られていきます。
 登場人物に共通しているのは、自分と自分の周りの人たちを大切に思う気持ちを誰もが強く持っているということ。そういう気持ちを持っている人たちだからこそ、大混乱の世の中を生き延びることができた、というようにも読み取れます。いずれにしても全ての人々が、命に限りがあることを常に意識せざるを得ない時代が描かれているわけです。

 若いキミたちはもちろんのこと、私のような年齢の人間でも、自分がいつか死ぬ、ということを普段は忘れています。ほとんどの人がそうでしょう。常識としては当然知っているわけですが、気にしないで過ごすことができる。これは人間の素晴らしい本能ですね。
でも私は、人間の命には限りがあるということを、たまーに思い出すことは悪くないな、と思っています。
 私たち人間が等しく持っているのは「今」という瞬間だけです。過去には戻れませんし、未来は必ず来るとは限りません。でも「今」は確実に我々の手の中にある。そして「今」私たちは生きています。ですから全てはそこから出発することになります。「今」生きているということを喜び、感謝することから始める必要があります。
 「今」みなさんは何をしていますか。そこに座って、成城学園中学校への入学の時を受け止めています。頭の中には色々なことが思い浮かんでいるに違いない。これまで仲良くしてきた小学校時代の友達のことを思い浮かべている人もいるでしょうし、これから入ろうと思っている部活動のことを考えている人もいるかもしれない。あるいは将来に向けて自分の進むべき道を思い描いている人もいるでしょう。いずれにしてもみなさんは「今」を大切に生きています。そして、それは自分が成長していくことと結びついています。人間は常に成長することを目標に生きています。後悔することなく生きるには成長し続けるしかありません。「今」という瞬間は次々と押し寄せてきます。命に限りがあるからこそ「今」を精一杯に生きることしか私たちにはできません。
自分の人生に限りがあることをたまには思い出すのも悪くない、というのはそのことです。

命がある限り成長しようとする。
命に限りがあるからこそ成長しようとする。
自分のために成長しようとする。
自分の大切な人のために成長しようとする。
自分の知らない人のためにも成長しようとする。
それが人間という特殊な生物の存在意義です。

 そんなことをこの小説を読みながら考えました。この小説には隕石が実際に衝突する時のことは描かれていません。でも人類はきっと賢く柔軟に生き延びることができるのではないかと信じています。
 中学生になるということは、大人への第一歩を踏み出すということです。大人とは命のはかなさと大切さを身に染みて感じることのできる人間だと私は思っています。
 今日はみなさんに無理やり「死ぬ」という恐ろしいことに気持ちを向けてもらいました。
めでたい日にゴメンなさい。でも、もちろんそれは悔いのない中高生活を送ってもらいたいという思いからです。
3年後、中学の卒業の時に、そして6年後、高校の卒業の時に、悔いのない毎日を送ることができたぞ。と笑顔でもう一度そこに座っていてください。(挨拶部分は省略)

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