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2025.12.19
この副校長ブログで、以前、高校2年生の探究学習「ゼミナール」での実践を紹介した(第38号)。先日、その時のプレゼン大会で金賞を受賞し、高3「ゼミナールⅠ」でも探究を続けた大安楓君の論文がすばらしいと、担当者が教えてくれた。
高2の時、彼は「日本の伝統文化を後世に残していくためには」と題した探究活動を進めていた。「日本人自身は、日本文化のことをどう捉えているか」について老若男女100名への街頭アンケートをはじめ、オンラインを通じた世界の若者との交流の機会を利用して、日本文化についての意識調査もおこなった。そこで、「日本人自身の、日本文化に対する関心は低いのでは?」との彼の仮説に反し、結果は9割が「関心がある」と回答したのだという。彼のこの驚きが、探究活動のひとつの動機になっていった。
彼は高3でもこの探究テーマを継続し、ひとつの提案をつくりあげた。
「ビジネスモデルとしての還暦式」。彼は日本の伝統文化の中でも「着物」に着目し、そのビジネスモデルを考案、提唱している。
彼の論文の一部を、そのまま抜粋してみたい。
「…具体策として、着物を購入し自ら身にまとうことを前提とした、新たな『還暦式』を提案する。還暦は干支が一巡し、生まれ年に変わる節目であり、長寿や再出発を意味する重要な通過儀礼である。従来は赤い衣を送る風習が知られているが、現代においては必ずしも赤に限定する必要はないと考える。むしろ色や柄は自由に選択できるようにし、還暦式の象徴は色ではなく証として残すことが効果的である。例えば、還暦式専用に「家紋をモダンにデザインした記念刺繍」や「還暦を表す干支をアレンジしたワンポイント」などを施すことで、唯一無二のオリジナル性を付加できる。これにより購入した着物は単なる衣服ではなく、人生の記念碑として価値を持ち、長期的に保存継承される資産へと昇華する。」
つまり、着物という伝統文化の衰退を憂うるだけではなく、その展開の可能性をひとつのビジネスモデルとして提案しているのだ。彼の論文は、ターゲット、商品戦略、収益ビジョン、販売方法、マーケティングと続き、ひとつのまとまった提案となっている。
彼に話を聞いてみると、高3の探究活動は、自分の問題意識をビジネスとして提案することがひとつの目的だったそう。彼は実際に、江戸時代からつづく着物の老舗メーカーの社長さんに取材、今の着物産業が抱える問題を整理した。彼はまた、書道教室で書道を外国人に教えるボランティアもしており、日本文化に対するいわば「地に足のついた」問題意識から今回の探究活動をおこなってきた。
目を輝かせながら、彼はこう語ってくれた。
「若者にとって着物はいろんな意味で敷居が高い。価格も高いし、何か特別視している印象。だが、レンタル着物などのニーズはあり、関心が全くないわけではない。まずは着物産業の衰退を止めるために、アクティブシニアと呼ばれる、比較的余裕のある女性層をまずターゲットに据え、着物を買ってもらう機会としての還暦式の定着を目指す。それと着物を結び付けることによって、ビジネスとして着物産業の衰退を止めたい。そのことが、ひいては日本文化としての着物の存在を、若者や世界に広めていくことにつながる。」と。
自身の今後の進路も、そうした自分の問題意識を深めることを念頭に選択したのだという。
大安君の強みは、彼が所属している「メディアアート部」にもある。彼は日ごろから部活を通して動画制作についても知識と技術を身につけており、日本文化についての彼の問題意識を、的確に発信する術も持ち合わせている。論文を書くことはたやすいが、その内容を形として実践していくことこそ難しい。しかし彼には、その力がある。
日本の伝統文化の生き残りを目指し、一人の成城生が立ち上がった。後に続く生徒が現れることの期待とともに、大安君にはこれを単なる机上の論に終わらせることなく、飽くなき挑戦に向かってほしいと思っている。
(以下はプレゼンで使用したスライドの一部。大安君が提供してくれた。)
※冬休みに入るため、副校長ブログはしばらくお休みさせていただきます。