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  • 2024.03.01

    副校長ブログ「ゆめみる」第19号 『小澤征爾さんと「成城プライド」』

2月6日、成城学園の大先輩である小澤征爾さんが88歳で亡くなった。2月10日の朝刊では各紙一面で訃報を掲載、「世界的指揮者」の死を悼んでいた。テレビや新聞、ネットニュースでは、小澤さんの物怖じしない行動力かつ人懐っこい個性と、それをもとに世界的な指揮者として大成していった姿を多くの時間を割いて報じていた。

小澤さんはよく成城の街を歩いていた。筆者も一度、成城学園前駅の改札前で、上下スウェットでサンダルをはいて歩いていた小澤さんを見かけたことがある。特徴ある髪型からすぐに小澤さんとわかったが、どちらかというと粗末な部屋着で成城の街中を歩いていらしたので、一瞬目を疑った。歩いていた人々も、「ん?」っていう感じで足を止め「あの人、小澤征爾さんだよね…」と驚いていた光景を思い出す。

小澤さんは成城学園中高のパンフレットにも、卒業生として寄稿してくださっている。成城学園で中学から高校1年までを過ごし、中学時代はラグビー部で活躍した。その傍らで、ピアノの練習に明け暮れたのだという。写真は小澤さんがよくピアノを弾いていたという旧中学校の音楽室だ。物置として利用されていたこの音楽室は、旧中学校本校舎に先立って2011年に解体されてしまったが、小澤さんはこの音楽室を訪れてとても懐かしそうにされていたそうだ。

ふと思った。

生徒たちはこの訃報をどう見たのだろう。新聞各紙の一面に掲載され、その日の多くのニュースの冒頭に取り上げられるほどの大先輩がいることを、生徒たちはどう思ったのだろう。
そんな大先輩が、「成城学園中学校で過ごした3年間がいちばん楽しかった」と語る、その成城学園で毎日を過ごしていることを、どう感じているのだろう…と。

筆者は岩手県の田舎町の出身だが、1898年創立の県立の伝統校で高校時代を過ごした。今でも校歌を始め数々の応援歌が口をついて出てくる。その母校で過ごしたことは「誇り」であり、50代半ばを過ぎた今でも自分の基礎をつくっていると感じている。

価値観が多様化する現代だが、多様化しているがゆえに一つひとつに感じる「価値『感』」が薄まっているように思うのは私だけだろうか。今の子どもたちは成城学園にプライドを感じなくても、「推し」とともに同じ時代を過ごすことや、SNSで多くのフォロワーを獲得することのほうに誇りを感じるのかもしれない。そしてそれは次々と変わっていく…。「成城プライド」を説いても、首を傾げられて終わりそうな気がしている。

小澤さんが「成城」という学園や街に感じていた「誇り」「愛着」と同じようなものを、生徒たちにも感じて欲しいというのはすでに昭和世代の勝手な戯れ言なのだろうか。今後荒波にもまれながら人生を生きていく生徒たちが寄って立つものって、いったい何なんだろうか…と、ちょっと考え込んでしまっている。

小澤さんに、今の成城学園の生徒たちの前に、一度立ってみてもらいたかった。

こういう時にこそ「世界のオザワ」が指揮する動画をみながら、元気をもらおうか。

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