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  • 2020.04.02

    中村校長より生徒の皆さんへのメッセージ

成城学園中学校高等学校のみなさんへ

 みなさん、お元気ですか?
 桜が咲いているのに雪が降り、まだ、その雪が少し残っている3月30日の午後、とても静かな職員室でこの文章を書き始めました。職員室の窓からエントランス広場を見ているとムクドリとカワラヒワという鳥が2羽ずつ、楽しそうに草の種を食べています。

 私は理科(生物)の教員です。その視点からみなさんに伝えたいことを書いてみようと思いました。

 まず、今私たちを苦しめているウイルスって何だと思いますか? たぶん、バイキンだとか、病原菌だとか、微生物だと思っている人が多いと思うのですが、そもそもウイルスは生物ではありません。つまり、生きていない「もの」なのです。でも、やっかいなのは、増えていくしくみをもっています。生きていないのに増えることができるのは、生物がもっている増えるためのしくみを利用することができるからです。詳しいことは高校2年生で習うことなので、ここで難しいことはやめておきます。でも、無理矢理、例えば話にすると、そう、ウイルスは、まるで、「ことば」のようなものです。

 「ことば」は生物ではありませんよね。でも、考えるとすごい勢いで増えていきます。たとえば、この1ヶ月でクラスター、パンデミック、オーバーシュートといった言葉が次々と登場し、ものすごく使われるようになり、すごく増えていきました。人から人へと伝わり、広がっていく勢いはものすごいものです。よりインパクトが強い言葉が選ばれて、生き残り、広がっていきます。

 最近の「ことば」の伝わり方と、今回の新型コロナウイルスの広がり方には共通点があると思います。発達した交通手段で人と人とが国境を越えて、ものすごい勢いで行き来しているからこそ、あっと言う間に世界中に感染が広まっていきました。昔では考えられないスピードです。これは、今、SNSなどで、あっという間に「ことば」が広まっていく状況に似ています。

 新型コロナウイルスがやっかいなのは、インフルエンザと同様、のどや気管支、肺の細胞に入り込んで、細胞を壊し、咳やくしゃみをおこすようにするところにあります。そんなウイルスだからこそ、早いスピードで人へ広がっていくのです。生物ではない「もの」にこんなことができるのは、それこそ驚異的なことです。でも、ウイルスは生物ではないので、ウイルスだけで増えることはできません。必ず感染する相手となる生物が必要です。「ことば」も同じです。使う人がいなければ広まっていきません。

 でも、ウイルスと「ことば」には、決定的な違いもあります。それは、「ことば」を使う人の意識や心のあり方が大きく影響することです。さらに「ことば」には、文字にできないものがたくさんあります。表情、声の大きさ、周りの雰囲気、そんなものが「ことば」には、いっぱいくっついていると思うのです。学校という場所が大切なのは、そんなたくさんの「ことば」の使い方を、いろんな出会いの中で経験していくところにあります。それは授業、休み時間、部活、登下校といった、いろんな場でのものすごく小さな積み重ねです。だからこそ、早く学校で、みんなのにぎやかな声が響くことが、実はとても貴重で大切なことなんだと改めて感じています。

 今、私たち教員は、「いつもと違う」4月を迎えて、どこまで「いつもと同じ」ができるのかについて知恵を出し合っています。たとえば、サクラが咲いた後に雪が降ったように、いろいろなものの順番が変わってしまうこともあるかもしれませんが、いろいろな可能性を考えていこうと思っています。

 長くなりました。でも、書きたい事は、まだまだたくさんあるので、また今度。

校長 中村 雅浩
校長 中村 雅浩

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