美術科研究部

研究方針

美術科が大切にしていること

自己を表現することは、生きることそのものだと、私たちは考えています。
それは大人だけでなく、子どもにとっても同じです。

特に、自分の気持ちや考えを言葉で表すことが難しい子どもにとって、美術はとても大切な表現の手段になります。
人と関わり、ものに触れ、出来事と出会いながら、手を動かして何かをつくることそのものが、自分を知り、考えを整理する時間になることがあるからです。
子どもがなんとなく材料をいじっているうちに、「あ、いいこと思いついた!」と目を輝かせる場面を、見たことはないでしょうか。

このように、子どもたちの姿を見ていると、作品として完成する前の段階で、「触る」「試す」「つくり直す」といった行為を通して、自分の中にある思いや考えを確かめている様子が見られます。

それはまるで、言葉の代わりに、表現することで自分を語っているようにも見えます。
こうした実践や研究を重ねる中で、私たちは「子どもはいつも、実現したい何かを持っている」という子ども像にたどり着きました。
作品という形になる前の、行為と表現のあいだにも、子どもなりの「やってみたい」「こうしたい」という思いが確かに存在しています。

このような考えのもと、私たちは次のことを大切にしています。

・大人の価値観を押し付けないこと
子どもが自ら答えを出すことを大事に-
正解は、子ども自身の中にあります。

・共有が生まれる場をつくること~人を知ることで、自分を知る~
授業の中で何度も自己決定を繰り返し、
自分で自分なりの価値観をつくっていけるよう、
友だちとの共有を大切にしています。

・つくる時間は、問題解決の連続であること
思い通りにいかない経験や試行錯誤を重ねる中で、
子どもは「乗り越える力」だけでなく、
自分で問題を見つけ、自分なりの課題をつくり出す力を育てていきます。

・創造が生まれる場を大切にすること
教室の環境だけでなく、
教師自身も環境の一部であるという考えのもと、
創造的な学びの場づくりを心がけています。

三つの領域で子どもの認知機能の成長を支える

本校の美術科では、絵・彫塑・工芸の三つの領域に分けて教科運営を行っています。
大まかに捉えると、
・絵では、平面表現を通して視覚的な感性を育み、対象の見方を深め、
・彫塑では、立体表現を通して触覚的な感性を育み、形や量感の捉え方を養い、
・そして、それらを統合し、工芸では素材と技法を生かして「表現としてのかたち」へ結実させていきます。

もちろん、それぞれの領域の中でも、感じること(インプット)と表すこと(アウトプット)は常に行き来しています。
平面表現と立体表現という視点から見直すと、絵や彫塑は「心の中のイメージを表す表現(心象表現)」、工芸は「使うことや機能を意識した表現(機能表現)」と捉えることができます。
この考え方は、実は大正時代の文献にも見られ、長い時間を経てもなお、成城の美術教育の中で大切にされ続けている視点です。

美術科全体として、子ども一人ひとりを支える

このように、本校では図画工作科を「美術科」として捉え、三つの領域を通して、子どもの育ちに多面的にアプローチしています。
美術科全体として捉えることで、さまざまな個性を持つ子ども一人ひとりが、安心して「何かを生み出す」ことのできる場になると、私たちは考えています。

2025年度研究テーマ:内面の豊かさを育てる美術科の授業の創造

はじめに.
本校の共通枠に沿い,美術研究部では「内面の豊かさ」を二側面から捉える。二側面は,製作と鑑賞の往還の中で育つと考える。以下に活動と教師の要点を整理した。

① 自分に関する「内面の豊かさ」
 子どもは造形的な視点をもつことで,身近な世界にある「面白さ」や「きれいさ」に気づき,「こうしてみたらどうなるかな?」「この石,不思議な模様してる!」など,自分から働きかけたり感動したりする。こうした経験の積み重ねの中で,ものの見方や価値観が少しずつ形になっていく。ここでいう「きれいさ」は、単に整っているという意味ではなく、子どもの内側から生まれる、子どもの感性に基づく「実感的な言葉」である。子どもたちの言葉には,「なんだか心地いい」「なんかすき」といった実感が混ざっており,子どもの内側から立ち上がってきた感覚の言葉として丁寧に扱いたい。工芸では丁寧さや仕上がりの整い,絵では色合いのよさや今までにない描き心地との出会い,彫塑では形の構成や質感の心地よさとして語られることもある。「きれいってどんなきれい?」と問い返すことが,子どもが大事にしているものを見取る手がかりになるのではないか。

 たとえば「なぜ鮮やかに感じるのか」を自分なりに考え,色や形などで表そうとする活動,身の回りの課題を見つけ,造形的な工夫で解決を試みる姿がある。子どもたちの中に生まれた違和感や発見,「こうしたい」という願いが試行錯誤の中で形になる過程そのものが,内面の豊かさの表れであると捉えている。

 ここで教師に求められるのは自分の気持ちや考えを素直に表現できる環境を整えること。過度な指示や「正解探し」を促す関わりは控え、題材設定や、安心して試せる雰囲気、多様な表現を受け止める声かけを大切にしたい。また、子どもから生まれる「きれい」「なんか好き」といった言葉を、そのまま評価にして終わらせず、「どこが?」「何を見てそう思った?」と、言葉の奥にあるものを一緒に確かめ直していくことも重要である。

② 相手や他者に向けられる「内面の豊かさ」
 他者の作品や活動に触れ,「どうしてこうしたのだろう」「どんな気持ちかな」と想像しながら,自分とは違うよさや面白さを見つけようとする姿は,鑑賞の学びとして大切である。ただ,美術部としては,ここを「鑑賞」だけに閉じず,その土台となる日常の関係性や教室の風土まで含めて捉えたい。友だちの表現を素直に受け止めるには,「相手を大切に思う気持ち」だけでなく,自分の感じたことを安心して言える経験の積み重ねが必要になる。心がせわしないときや,互いに身構えているときには,作品のよさに気づいても言葉にしずらく,相手の言葉も受け取りにくい。反対に,日常的に「それいいね」「ここが面白いね」「私はこう感じた」と言い合える関係が育っていると,鑑賞は一気に深まり,作品を通して相手の内面に出会える時間になっていく。

 友だちの作品を「きれい」と言う一言の中にも,丁寧さへの敬意や意図への共感,驚きや憧れが含まれ得る。だからこそ教師が「きれいって,どこが?」「どうして?」と問い返し,言葉にして共有することが,他者理解と鑑賞を深める。ここで大切にしたいのは,評価をそろえることではなく,違いを持ち寄り,互いの見方に影響を受けながら,自分の感じ方も育っていくような学びの場である。

 そのために,鑑賞の機会や安心して語り合える場を意識的に設けると同時に,日常の中でも互いの表現を尊重し合える態度が育つよう働きかけたい。教師も環境の一つとして,子どもが安心して言葉を出し,受け止め合い,学び合いが成り立つように静かに支える存在でありたい。