幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

成城幼稚園園長 石井弘之

 長年の英語学習の問題点を私は体現しているような人間である。大学は出てるので、さすがに英単語はそこそこ知っているし、現在完了や仮定法過去くらいはわかる。しかし、会話が全くできない。とにかく聞き取れないのだ。
 国もこれではマズいと本気で考えるようになったのだろう、最近は四技能などということが盛んに言われて、読み書きから、「聞く話す」に重きを置くよう転換してきてはいる。しかし効果の方は怪しい。
 そもそも英語というのはヨーロッパ系の言語としては、文法は平易だが音声的には意外と面倒な言語だ。BOOKとBLOODとMOONでは「OO」の音が違う。つまり文字と音とが1対1対応ではない。音が複雑だ。
 アルザス校に勤務したとき、フランス語って聞き取りやすい言葉だなぁと思った。学んだことなんてなかったので、内容はさっぱりなのだが、とにかく書いてある通りに読めばいい。文字と音とがほとんど1対1対応なのだ。知っている単語はちゃんと耳に入ってくる。

 成城幼稚園には、ネイティブの英語教諭が常駐している。英語そのものの授業は年少さんで週に10分を1回、年中さん・年長さんで週に15分を2回と長くはないが、とにかくネイティブの先生が一日中園にいるという点は、他の園ではあまり見ない取り組みだと思う。
 朝は玄関で園長の私に「おはようございます」その横にいるネイティブの先生に「GOOD MORNING」を言って園児は保育室に向かう。そこから始まって、英語の授業のない時間はどこかのクラスに他の日本人教諭と一緒に加わり、園児とともに過ごす。その間、ずっと英語で話しかけているのだ。おそらく成城学園でネイティブの先生と交流している時間が最も長いのは幼稚園だと思う。
 幼児期の人間は耳が敏感だ。一説によると生まれたときはすべての音を聞き分けられるのだが、徐々に母語以外の音は聞き取れなくなるそうだ。だからこの年齢のうちに英語の音を、意味なんてわからなくて良いからたくさん聞いておいてほしいのだ。本人さえ気づかず、将来なんだか英語の音を識別できるようになっていたらしめたものだ。

 二年間お世話になったアリエル先生が3月で退職した。代わってマライヤ先生が赴任した。成城学園には英語一貫教育委員会という組織がある。幼稚園から高校までの英語教育が効果的に無駄なくおこなえるよう目標を明確に定めて運営されている。
 初等学校以上と違って幼稚園には日本人の英語専門教諭はいない。新しいネイティブの先生を採用する時にも、この一貫教育委員会が窓口になっている。今回も面接などを委員長(現在は高校の英語教諭)が担ってくれた。そういう点も成城学園としての優れた連携といえるだろう。
 アリエル先生は、アメリカ人ってこんなにシャイなの?と思うような方だったが、園児の面倒を親身に見てくれる素晴らしい人だった。園児には隠していたが実は日本語もペラペラだったので、われわれ日本人スタッフには大変ありがたかった。
 マライヤ先生はまだ2か月弱の勤務だが、すでに園に馴染んでいる。日本語は挨拶程度だが、積極的に園児とかかわってくれて、大変助かっている。
 アリエルの弱点は虫だった。園児がダンゴムシを持ってきたりすると逃げ回っていた。「嫌いというより気持ち悪いんですよね」と言っていた。その点マライヤは平気で、園児の差し出すカブトムシの幼虫なんかを熱心に見ながら何か喋っている。
 「アリエルは虫が嫌いだったけど、マライヤはダンゴムシとか嫌いじゃないみたいだね」と私が言うと「大丈夫ですよ。ちなみにダンゴムシは英語でPILL BUG. 形が薬みたいでしょ。でも子どもたちはROLY POLYって言ってるかな」と教えてくれた。

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