幼稚園生活

2026.05.13
成城幼稚園園長 石井弘之
本日5月13日は年中さんにとっては覚悟の日である。今日からひとりで園の中に入って行かなければならない。成城幼稚園では年中組の4月までは、保護者が園児と一緒に保育室までやってきて、担任に引き渡す。そして5月の半ばに毎年この日がやってくる。玄関に保護者を置いて自分ひとりで保育室に向かうのだ。
今日はおよそ9割近い年中さんたちがその試練を乗り越えることができた。すでに年少の途中から、ママを玄関に置いて先に保育室に走っていく子もいる。逆に年長になっても玄関での別れがつらくて、ぐずってしまう子もいる。子どもの性質や親子の関係、その日の気分などさまざまな要因が重なって、朝の風景が作られていく。
この日、私は子どもの「覚悟」を目にする。昨日まではママの後ろに隠れて、モジモジしながら聞こえるか聞こえないかの声で「おはようございます」と言っていた子が、きりっとした真顔でハッキリと「おはようございます」を言うのだ。ひとりでできるのだ。ひとりならできるのだ。それを親という存在ができなくさせていただけだ。親の接し方が悪いとかいう問題では全くない。そんな子が何人もいる。
子どもの「覚悟」というと私には思い出すことがある。
アルザス校に勤務していたころの、長期休みが終わっての入寮日。世界中から生徒たちが帰ってくる。ヨーロッパに居住している生徒は保護者の運転する車で帰ってくる。高校生にもなれば、自力で電車を使って帰ってくる子もいる。日本在住の生徒たちは、旅行代理店が企画した添乗員さん付きのツアーでたいがい帰ってくる。そしてその子は成田で逃げた。見送りの保護者に見つからないよう空港内を転々として、ちゃんと飛行機に乗り遅れたのだ。後で聞いたその中学生の名言「僕はコンビニのない国には住めないんだ」は今でも忘れられない。
その子が弱かったわけではない。彼らはもの凄い「覚悟」を持ってアルザスに戻ってきているのだ。アルザス校はもちろん過酷な場所ではない。それでも親元を離れ、他人と同じ部屋で寝起きをするストレスは現代の中高生にとっては決して小さなものではなかったろう。東京校の生徒とさしたる違いはないように見える彼らに、私はときどき「あぁ。覚悟が違うな、この子たちは」と感じることがあった。
年中さんが玄関に保護者を残してひとりで立ち向かっていく姿はカッコいい。全身から「覚悟」をみなぎらせて歩いているのだ。