幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

成城幼稚園園長 石井弘之

 「はじめてのおつかい」という番組をご覧になって、幼児の健気な姿に一喜一憂し、微笑んだり涙ぐんだりされた方もいらっしゃるだろう。成城幼稚園には「お買い物体験」という名称で、年長さんが街での買い物に挑戦するという行事がある。
 昨年度は駅前の村田永楽園でお花を買った。今年度は成城学園前駅の上にある三省堂書店に絵本を買いに行ってきた。テレビ番組のようにひとり・ふたりで行くのではなく、教員も付き添うし年長さんの半分である20人でワイワイ行くので心細さはないが、いつもはパパやママがやってくれることを自分でやらなくてはいけない。小さな冒険である。選んだ商品をレジに持っていき、現金を払い、レシートを貰う、というドキドキ・ワクワクの体験だ。
 一度に20人がお店に入ると、他のお客さんに迷惑になってしまうので、10人ずつお店に入る。お店の方があらかじめ選んでおいてくださった同じ値段の4種類の絵本の中から選ぶ。じっくり悩んで選ぶ子、見た瞬間に手に取る子などさまざまだ。Rくんなんぞは「えっ!ボクも選んで良いの?」なんて驚いた顔をしている。おいおい、ここに何しに来たんだっけ?出発前に担任の先生が説明してたよ。
 嬉しかったのだろう、帰り道で「私は何の本を買ったでしょうか?」とクイズを出してくる子もいる。こうやって社会の一員になっていくのだ。
 と、ここまでは子どもたちの小さな冒険とそれを支えてくださる成城町のみなさんのありがたさ、特に面倒な対応を引き受けてくださった三省堂書店への感謝の報告だ。しかしここからはちょっと「う~む」なお話。
 学園に戻り、ドーナツ池をバックに絵本を手に持って記念撮影をした。その時に私が発した「自分で買った絵本だから、おうちの人に自慢するんだよ~」という言葉に予想外の反応が返ってきた。「えー、自慢しちゃいけないんじゃないの?」「自慢って悪いことだよね」というものだ。
 あー、この子たちってこの年齢ですでに日本人なんだなとしみじみと感じた。中高から幼稚園に異動になって私がまず感じたのは「園児って中高生とたいして違わない」というものであったが、こういう点でも彼らは中高生と、さらには大人と同じなのだ。
 時代が変化し、新たな感覚が生まれてはいるが、それでも日本人は慎み深い。土産を渡すときに「つまらないものですが」という文化からなかなか抜け出せない。
 確かにそれが美徳であることを私も否定はしない。だが、それは一方で同調圧力の中で自分が突出しないように振舞わせる源にもなっている。自分はこういうことがやれたのだと正当に評価する。できるという自信を持つ。そこには自慢という側面があっても良い。
 調査によると日本の若者の自己肯定感は諸外国と比較してかなり低いそうである。自分を褒めない慎み深さの蓄積がその遠因にもなっているのではないかと私はにらんでいる。
 みんな!「この絵本は、自分で本屋さんに行って買ったんだ」と自慢して良いんだよ。

コラム「たいこばしくん通信」一覧

page top