幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

成城幼稚園園長 石井弘之

 今はBMIの値が基準を軽々オーバーしているが、子どものころ私はガリガリだった。親戚が集まった場で、叔母に手首をつかまれ「ほそーい。折れそう」とからかわれた記憶が薄っすらある。特に好き嫌いが激しかったわけではなかったが、とにかく食が細かったらしい。そのうえ一人っ子だからか食べるのが遅く、小学校ではいつも給食を居残りで食べているような少年だった。親は心配して、かかりつけの医者に「食欲の出る注射」なるものを打ってもらったと言っていた。その薬は60年後の今になって効いてきたようだが、ホントは何の注射だったのだろうか。
 変わったのは高校でラグビーを始めてからだ。弁当以外にも学校を抜け出してカレー屋やラーメン屋にも行っていた。しかしラグビーの消費カロリーは凄まじく、ようやく太り始めたのは高3で引退し、受験勉強で夜食を摂るようになってからだった。
 こんなことを思い出したのは、年長さんのHくんのおかげだ。
 園庭に面したデッキで先生たちが数人集まって驚いた声を上げている。どうやらHくんを褒めているらしい。その輪から私の方に押し出され、先生たちに促されてHくん自身が私に報告する。「はじめてお楽しみランチのお弁当、完食しました。」嬉しそうだった。誇らしげだった。照れくさそうだった。それらが入り混じった晴れがましい笑顔である。
 成城幼稚園では通常は家庭で用意したお弁当を昼食としている。だが月に1回、「お楽しみランチ」と称してお弁当を配達してもらい、皆が同じものを食べる日を設けている。おにぎり2つにおかずが3品。それに小さなデザートという構成だ。かつての私と同様に食の細いHくんは、これまでそのお楽しみランチを食べ切ったことがなかった。本人も周りもそれを気にしていたのだろう。
 そして今日、彼はついにやった。カッコよかったのは食べる前に「今日は完食できる」と宣言した上で立ち向かっていたことだ。挑戦し、やり遂げた。記念すべき今日のメニューは、おにぎり2つ・チキン・ほうれん草の胡麻和え・ベイクドポテト・焼き菓子だ。
 しっかりした身体を作るには「食う」「寝る」「動く」が基本だ。というかその3つしかない。保育園とは違い幼稚園にはお昼寝の時間はない。「寝る」については保護者にお任せするしかないが、「食う」と「動く」は幼稚園の教育の大切な中心である。
 Hくんは、確かに小柄ではあるが、元気の良い少年だ。これからガンガン食べて、グングン育っていくだろう。
 園では、お楽しみランチを月2回にする方向で検討している。

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