幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

 いつも「たいこばしくん通信」をご愛読くださり、ありがとうございます。2学期の更新が遅くなりましたこと、お詫び申し上げます。
 今回は11月に開催された文化祭の共同製作について触れたいと思います。

 成城幼稚園の文化祭の共同製作では、毎年年中組と年長組がグループに分かれ、数日間掛けて大きな作品を力を合わせて作ります。昨年の経験がある年長組は年中組をリードし、初めて共同製作に参加する年中組は、そんな年長組の姿を見て、憧れを感じたり、「来年、自分たちが年長組になったら年中さんを優しく教えてあげたい」という思いを持ったりします。同じ学年の友達だけでなく異年齢と関わる中で、自分とは異なる色々な考えの友達がいるということに気が付き、お互いの違いに面白さを感じたり、意見がぶつかり合うことで時に我慢を経験したりします。また、活動の後半にかけては、友達と力を合わせることで大きなことを成し遂げられる喜びや、作品が完成する達成感、一緒に過ごしてきたグループの友達や、異年齢の友達に対する親近感なども生まれてきます。様々な感情の揺れ動きが起きるため、能力面だけではなく心の成長も大きく促される活動だと思います。この活動は成城幼稚園が長年大切に受け継いできた伝統の一つとも言えます。

 共同製作を通して、私が担任をしている年長組の子どもの成長を感じたエピソードをご紹介します。
 2日目の共同製作の活動が終わり、クラスで帰りの集まりの際に、各グループの作品の進捗状況や、感想について尋ねてみました。

するとクラスの男の子A君は、真っ先に手を上げ
「今日はすっごくいいことがあったんだ!」
と何やら嬉しそうです。

「なになに~?A君何があったの?」
と皆で聞いてみると、A君は、
「今日はガムテープが綺麗に切れたんだ!」
と教えてくれました。

それを聞いた周りの友達は、
「すごい!!よかったねA君!!」と拍手をしました。

照れたA君は、「神様が上手く切らせてくれたのかも。家では切れなかったんだけど、幼稚園では上手くできたんだよ!」と答えました。その顔からは「上手くできた!」という満足感と、友達から誉めてもらったという喜びが溢れていました。

 実はA君は去年年中組の時、上手くガムテープが切れず、同じグループの年長組の子に切ってもらっていたそうです。大人からすると、ガムテープが綺麗に切れるのは当たり前のことかもしれません。しかし、この年齢の子どもにとって布製のガムテープを手で綺麗に千切るのは簡単なことではありません。しっかり指先に力をかけること、でも思い切り切ればいいという訳ではなく、力を入れすぎてしまうと勢いで千切ったガムテープが折れて粘着面同士がくっつき使えなくなってしまいます。絶妙な加減の調整が必要な、子どもにとっては高度な技術だと思います。共同製作では、まだガムテープを綺麗に切ることが難しい年中組の友達に、年長組が切って渡してあげる姿を毎年必ず見かけます。A君は自分が年長になり、今度はいよいよ自分が年中さんを助けてあげる番という思いがあったのだと思います。共同製作が始まることを、以前からとても楽しみにしていました。

 子どもは自分がして嬉しかったことを覚えています。そして成長するにつれてそれを次は自分が誰かにしてあげたいと思うようになります。A君から後日、自分が昨年してもらったのと同じように、年中さんにガムテープを切って渡してあげたという話を聞きました。私はクラスの子どもたちに、誰かの役に立つことを自分の喜びや幸せとして感じられる人になってほしいと願っています。自分を大切にすることは勿論ですが、その気持ちを周りにいる人にも向けられるような存在へA君は成長してきたのだと今回の共同製作を通して感じ、とても嬉しく思いました。
 来年、年中組の子どもたちが年長になった時に、またこのようなやり取りを共同製作で見られるのが今から楽しみです。

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