幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

 1月7日に緊急事態宣言が再度発令され、政府は休校・休園措置は取らないという方針でしたが、東京都は、都立学校に登校生徒数を3分の2以下に減らすよう指示し、また東京都の中で一番感染者数が多い世田谷区は、保育園の保護者に対し、「登園自粛への協力お願い」を出しました。このような中で成城幼稚園は、東京都の感染者が2000人を超えた状況も重視して分散登園を決めました。成城幼稚園には、20人1クラスが学年に2クラス、3学年合わせて120人の子どもたちが在園しています。これを、分散登園によって各学年1クラスずつの登園にし、登園していないクラスの部屋を使って1クラスに10人ずつで保育をしていく形をとりました。

 少しでも自分のクラスと同じ環境で、ということを軸に部屋の棚やハンガーを移動したり、自分の物を使って安心できるように様々な準備をして、登園初日を迎えました。
登園が終わり10人ずつのクラスの子たちがそれぞれの部屋に集まり、「〇〇組さん」と呼び掛けると、元気な声で「は・あ・い!」と返事が。「△△組でお集まりをするけれど、皆は〇〇組さんで、皆といつでも会えるし一緒に遊ぶことも出来るからね。」と話すと、ある子から「僕たち△△組になるんじゃないの?」と返事が。「だって、皆も先生も〇〇組の名札をしているでしょ。〇〇組なのは変わらないよ。20人全員仲間だからね。」と話すと、隣の子と同じ色の名札を見せ合い、お互いホッとしたような笑顔が溢れました。過ごす部屋が変わるだけ、と大人が当たり前に思うことでも、子どもたちは想像以上に色々なことを自分で考え、言葉にしなくてもどことなく心細さを感じたり、ある種の純粋さ、柔軟さをもって事態を受け止めてくれていることを知りました。登園初日から数日間は特に、とにかく子どもたちが安心して過ごせるよう努めました。

 一斉活動では、担任は両クラスを行き来し、子どもたちの活動を見守り、把握するように意識しましたが、これが教師にとっては新たな勉強の機会となりました。活動の導入の仕方、声のトーンや言葉をかけるタイミング。事前に打ち合わせは綿密にしていても、教師によってカラーが出ます。こんなアプローチの仕方があるのか、自分もやってみよう、という機会になりました。研修会などでは経験していますが、色々な活動で複数の教師の保育を見られるということは願ってもないチャンス、とこんな事態の中でもプラスになることの発見でした。
降園後は、その日の子どもたちの様子を報告し合い、話し合ってきました。担任以外にもその日かかわった教師はもちろんのこと、時には園内清掃を担当してくれている職員から「Aちゃんが今日こんなことを言っていたよ。」「こんな空き箱をリクエストしに来ていたよ。」と聞いて、子どもの意外な一面を知ったり、子どもたちの可愛い姿を想像して、時にはついクスっと笑ってしまうことも。子どもたちのより良い成長の為にどんな手立てがあるか、あの行動の理由はこんな可能性がないだろうか、複数の教師で意見を出し合い、考えます。これは通常の保育と同じですが、分散にしている分、子どもたちを見ている教師の目も物理的に多くなります。

 1月は日本の伝承遊びに触れる機会も意識して、凧揚げ、カルタ取りや、独楽回し。各学年の年齢に合わせた遊びを経験しました。2月に入り、節分の豆まきをしたり、年長組は創作劇に向けて始動したところです。クラスの集まりでは、自分の思いを言葉にすること、人の話を聞くことも大切にしています。「作った物を皆に見せたい」「皆に話したいことがある」「発表したいことがある」。10人の集まりでは、いつもよりもじっくり話が出来たり、友達の発表を聞くことが出来ます。これも分散登園だからこそと言えます。

 リモートも最大限活用し、日によって歌唱(園舎内では合唱を避けている為)やダンスを中心としたクラス単位での活動や、ネイティブの教師による英語の時間を設定し、分散であっても毎日友達や教師と顔を合わせる機会を作ることを考え、実施しています。リモート保育ではZoomを利用し、回数を重ねるごとに子どもたちが慣れていくのを実感し、子どもたちの順応性の高さに驚かされています。現在も出勤を7割削減など政府からの方針が出されていますが、子どもたちが大人になる頃、社会はどのようになっているでしょうか。この年齢からのリモートの経験で、将来新しい技術の進歩に適応していく、時代をリードしていく存在になって欲しいと願います。
また、リモートでも、幼稚園の集まりと同じだということ、具体的には、座って参加する、それぞれが発言してしまうと聞こえない、人が話している時には聞く、飲食はしない、ということも話しました。便利なネットですが、ネチケットと言われる様々なマナーについても今後経験をする中で感覚を養っていって欲しいと思います。

 勿論、これだけ技術が発展してリモートが可能でも、やはり子どもたちの生活の基本は生身のコミュニケーションだと考えています。このことは、登園してきた時に、会える喜びを存分に感じている子どもたちを見て益々実感しています。
登園中には、リモートで話題になったことを再度話したり、感想を聞くなどして、幼稚園生活とリモート保育での出来事が切り離されないよう、両方の経験を繋ぐことを意識しました。これにも子どもたちは「先生、あそこのお部屋にいたでしょ。このお机がこっちにあって、折り紙がここに置いてあって・・・。僕分かっていたよ!」など、画面上で見たことを覚えていてしっかりと園生活と結び付けてくれていて、頼もしく感じました。

 分散登園やリモート保育は、保護者の皆様のご協力なしには成り立ちません。ご負担があるにもかかわらずご協力下さっていること感謝しています。
 新型コロナウイルスの日本での流行から1年が経とうとしています。すぐには難しいと思いますが、一日も早く通常の生活が戻ってくることを願っています。

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