幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

 文化祭翌日から、入園試験の休園期間に入るため、久しぶりの登園となった日。子どもたちの楽しみは、お友達に会うこと、遊ぶこと、さらに文化祭で展示していた共同製作で遊ぶこと。
 例年、子どもたちは、この日を心待ちにしています。登園すると、共同製作に乗ったり、入ったり、中には「壊れてきちゃったよ」とガムテープを片手に、修理を始める子どもたちも出動!今年は共同製作の「くるま」「ちーたー」「ひみつきち」「ほうせき」「りゅうぐうじょう」が、幼稚園の子どもたちの遊び仲間(遊び場)として加わりました。

 作ったあとも楽しめる共同製作。
 今年の共同製作活動の初日、実はこんなことがありました。年中組、年長組に向けて、司会の先生の説明を皆で聞いていた時のこと、Aちゃんが、たまたま隣に座っていた私へ、ヒソヒソ声で質問してきました。

Aちゃん「共同製作って、小さい組さんに売るの?」
私「お店屋さんごっことは違って、みんなで大きなものを作るから、小さい組さんには売らないよ」
Aちゃん「じゃあ、作ったらおうちに持って帰っていいの?」
私「みんなで相談しながら作るものだから、おうちに持って帰ることは出来ないかな」
Aちゃん「お母さんに見せたい!」
私「文化祭の日にホールに飾って、おうちのかたや幼稚園のみんなに見てもらえるようにするからね!お母さん
にも見ていただけるよ」
Aちゃん「へー。でも持って帰りたい」
私「そうか。(司会の)B先生は何てお話されてた?」
Aちゃん「分からない」
私「多分、B先生も持って帰るのは難しいってお話しされると思うけどなぁ」
Aちゃん「訊いてみる!」とAちゃんは挙手をしました。
Aちゃん「B先生、質問があります!共同製作は持って帰っても良いですか?」
教師B「持って帰ることは出来ないのよ。文化祭で飾りましょうね」
Aちゃん「・・・でも持って帰りたい」
私「気持ちはわかるけれど、Aちゃんが持って帰ったら飾れなくなっちゃうね。それにグループの仲間も、Aちゃんが持って帰ったらビックリすると思うよ」
Aちゃん「・・・持って帰りたい。お帰りの時間の後に、袋に入れちゃおう」
(いつも、自分が自由遊びの時間に作った製作物を袋に入れて持ち帰っているAちゃんには、まだ共同製作の大きさの実感がないようです。)
私「段ボールや大きい袋を使って作るから、袋に入れて持って帰るのは難しいかな」
C君「トランクに入れたら?」Aちゃんの話に興味を持ったC君が会話に加わりました。
私「お出かけする時に使うスーツケースのこと?共同製作はとても大きいから、それにも入らないかもしれない」
C君「違うよ。車のトランク」
私「車のトランクは確かに大きいけど、入らないかもしれないなぁ」
Aちゃん「じゃあ馬にする!」
C君「えっ?」
私「えっ?馬?お馬さんのこと?」
Aちゃん「そう。馬にのせて持って帰る」
私「馬が幼稚園に来るの?」
Aちゃん「そう」

 ここまでの対話を読まれて、皆さんは、どんなことを、またどんな風に感じられましたか?
子どもたちはこんなことを考えているだ、こんな風に考えていくんだということがAちゃんの言葉の中からいくつも読み取れると思います。
 私が、Aちゃんと話をしていて大事にしたいと思ったことの一つは、Aちゃんの「お母さんに見せたい!」という気持ちです。子どもたちは、遊びの時間に製作したものを、必ずと言っていいほど「おうちに帰って見せたい」と話し嬉しそうに持ち帰ります。ただ、今回のAちゃんの発言は、まだ物が出来ていない、作り始めてもいない段階から「お母さんに見せたい!」という言葉が出ました。それだけ強い気持ちがあったということです。これから自分がすごい物を作る。そのワクワク感が、さらにすごい物を作った自分をきっとお母さんは褒めてくれるだろうという期待感とつながり、彼女の発言になったと感じました。日頃のAちゃんとお母さんとの関わり方が見えてくる気がしました。
 「よく出来たね」「すごいじゃない」「ここを作るのが大変だったのかな」「よく思い付いたね」等など、保護者のかたが子どもたちにかける言葉の力のすごさを再確認した言葉でした。

 次に、考えたことは、子どもたちの発想の自由さです。大人の感覚からすると「何で馬が出てくるの?」って思われたかもしれませんが、ごっこ遊びに夢中になる子どもたちのことを考えれば不思議ではなくなるのではないでしょうか。そして、この発想の自由さが「持って帰る」ということにこだわっていたAちゃんの気持ちをAちゃん自身で解消させることになりました。

 Aちゃんとの対話の続きです。

私「馬が共同製作を持って帰りそうになったら、『みんなが大事に作った物なので、持って帰らないでください』って言わなくちゃ!」
Aちゃん「じゃあ、私のペットの虎を連れてくる」
私「今度は虎?ペット?幼稚園に虎さんが来るの?」
Aちゃん「そう」
私「幼稚園に虎が来たら、ガオーって大きな声で言われそうだし、ビックリするね。それに強そう。その虎が共同製作を持って帰るの?」
Aちゃん「違う!共同製作を馬にのせている時に、先生(私のこと)が『持って帰らないでね』って言いに来て、虎が先生のことをペロペロして、その時に馬にのせて持って帰るの。」
私「馬の上にのせている時に、私が出てきて、馬にお話しようとしたら、虎にペロペロされちゃうのね・・・なるほど!それは、確かに持って帰られてしまいそう!!」

 次々と出てくるAちゃんのユニークなアイディアに驚き、思わず笑ってしまいました。そして、馬と役割の違う虎を登場させる発想の柔軟さに脱帽でした。「(作った作品を)持って帰りたい」その言葉は、気持ちを込めて製作するAちゃんだからこそと言えます。そして、一つ一つの作品に目を向けてくださっているAちゃんのお母様の様子もAちゃんの表情から伝わってきました。

 その後、私はというと、修理チームの子どもたちとともに三学期終業式まで遊べる様、共同製作の補修が必要となってきたところがないか、状況を毎日確認しています。
 そして、馬とAちゃんのペットである虎がいつ来園するのか、心の中で楽しみに待っています!

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