幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

 成城幼稚園では、自由遊びの時間に、クラスや学年を越えて異年齢でかかわる機会が多くあります。今年度の1学期は、三密を避けるため、やむを得ず年少・年中が午前保育、年長が午後保育となっていましたが、2学期になり、改修工事が終わった学園内の施設も利用することが可能となって、3学年同時登園が始まりました。学年を越えた異年齢でのかかわりを目にすることが増え、嬉しく思っています。

 ある日、年中組と年少組が園庭で同じ時間帯に遊んでいました。下の庭で、トンネルの上の山から格好良く駆け下りてきた年中組の男児Kくんを発見!頭に折り紙の手裏剣のついた冠をかぶって、空き箱を繋げた剣を持っています。私は年少組数名の子どもたちと一緒にその子を見つめました。年少組は憧れの眼差しで釘付けです。Kくんは「先生、見て!」と得意そうに作った剣を見せてくれます。私は、「何に変身しているの?」と聞くと、「忍者!」と答えてくれました。「格好いいねー!」と伝えると、ニヤッと笑顔を見せて走っていってしまいました。その後、部屋で年少児Hくんから、「手裏剣が作りたい」と声が上がりました。別の教師が、「もしかしてさっきのKくんのように頭につける?」と聞くと、「うん!」と即答。Kくんのように手裏剣のついた冠を教師に作ってもらい頭にかぶると、Hくんは嬉しくて満面の笑顔で、ブロックで剣も作り出しました。それを見ていたクラスの他の子どもたちも「僕も作って!」「私も!」と忍者がどんどん増えていきました!冠をかぶって満足し「ママに見せる!」と楽しみにしている子、忍者になりきって友達と遊び出し、友達とのかかわりが生まれた子もいました。年中組とのかかわりがきっかけとなり、遊びが、友達関係が、広がっていく瞬間でした!私も冠を作った教員も嬉しくなりました。

 ある日、年長組の女児Oちゃんが数名の年長女児と一緒に年少保育室に遊びにきてくれました。Oちゃんは、絵本を読んでくれたり、その後他の年長児と一緒に、2人組になって「アルプス一万尺」という手遊びをしてくれました。すると、その周りに年少児が数名集まり取り囲み、またもや目が釘付けです。真剣に見つめる子、初めて聞いて何だろうと不思議そうに見ている子、Rちゃんは、一緒に口ずさみながら、「私知ってる!」と嬉しそうに見つめています。自分より2歳上のお姉さんに憧れる様子が伝わってきます。同年齢の友達だけの環境では生まれなかった光景でした。教師の大人がやって見せてあげるのとも違います。子どもである年長児が見せてくれることで、より身近な憧れの存在なのです。素敵ですね!

 そして、時に教師のような役割をしてくれることもあります。数年前の出来事です。ある日、年少女児AちゃんはBちゃんに「一緒に遊ぼう」と誘いましたが、他の子と遊ぶからと断られて悲しそうにしていました。日頃、Aちゃんは自分からはなかなか言えず、大人がどうしたの?と助けてくれるまで待っているところがあり、私はすぐには声を掛けずに、どうするかなあと見ていました。すると、スッと年中組の女児Cちゃんが駆け寄り、Aちゃんに「どうしたの?」と聞いてくれました。事情を聞いて、キョロキョロして私と目が合うと、ちゃんと担任の私のところに来て、「あの子が遊んでもらえないんだって」と伝えてくれました。私は、Cちゃんと一緒に、Aちゃんのところに行き、「いやだったら、遊びたかったら、どうしたらいいと思う?」と話すと、Cちゃんが、AちゃんをBちゃんのところまで手を引いて連れていき、一緒に話してくれました。私はCちゃんに任せて遠くからその様子を見つめていると、AちゃんとBちゃんは一緒に遊び始めました。Cちゃんは、きっと教師のように、代弁して解決できるよう手助けしてくれたのですね。いろいろな解決方法があると思い、答えは一つではないですね。

 この出来事には、二つの視点があります。一つは、悲しんでいる年少児のために年中児が教師の代わりに一緒に遊べるように交渉しどうしたら遊べるか話してくれたこと(年中児の優しさを実感できたこと)。もう一つは、一緒に遊びたかった子と遊べないという悲しい経験、一見マイナスに見える失敗の経験も成長の糧であるということ。
 遊べないのはいやだな、いやだったらどうしたらよいのか考える、自分なりに試行錯誤してみることが大切で、困ったときに自分でどう解決するのか、成城幼稚園では、近くにいる教師がすぐに手を貸さず、子どもの成長するチャンスを奪ってしまわないよう、見守り、必要な援助をすることを大切にしています。私たち教師は、常に、子どもに寄り添い、共感し、必要に応じてよりよいかかわりを考え、実践していきたいと思っています。
 お子さんから「○ちゃんが一緒に遊んでくれないの」と言われたら、親としてどう感じますか?心配ですし、複雑ですね。でも、悲しい思いを知ることで、人の優しさに気付き、相手を思いやる心も育まれると思います。
 年少Aちゃんは、異年齢のかかわりの中で、年中Cちゃんの優しさに触れることができました。親や教師に助けてもらうのとはまた全然違う、かけがえのない大切な経験となっていると強く感じています。

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