幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

 5月に入り、初々しい若葉が少しずつ鮮やかな緑色になり、初夏の訪れを感じる日々になってきました。
自粛生活が続く中、少しでも緑を感じたいという思いでベランダ菜園を細々と始めました。
その中の一つ、知人から挿し木で頂いた紫陽花に、ある日小さな蕾がつき始めているのに気がつきました。よく目を凝らしてみないと分からないくらいの小さな蕾です。それは、手を合わせているかのような葉っぱにしっかりと守られていて、その隣には少し大きくなった蕾が堂々とつき、葉っぱは蕾を横から支えるように大きく広がっていました。葉っぱは、生まれてきて成長していく命を大事に大事に守っているお父さん・お母さんのように見えました。

蕾を横から支えるように大きく広がる紫陽花の葉

 ちょうど昨年度の5月の今頃、年中児数人が固形絵の具を水に溶かして、色水遊びをしていました。自分でチョイスした絵の具を混ぜて、偶然できた色を喜び、何度も繰り返し楽しんでいました。通りかかった年長児が「紫作りたいなら、これ(赤)とこれ(青)混ぜればいいんだよ。」と絵の具を指差して教えてくれます。外遊びに行く途中の年少児が、興味津々といった表情で覗き込んでいました。1つの遊びの場面を切り取っても、それぞれの経験の積み重ねによる、かかわり方の違いが見られます。

 また、以前ある保護者の方が、休日にたくさん子どもと遊ぼうと思って張り切っていたそうで、おままごとをしようと子どもを誘い、遊んでいたら、子どもから「お母さん、もう遊んでいい?」と聞かれたそうです。その時お母さんは、遊んであげていたつもりが空回りしていたと気がついてとてもショックを受けた、と打ち明けてくれました。聞けば、おままごとの役や設定まで細かく子どもに話して、いざ、と始めたそうです。一生懸命なお母さんだからこそですね。きっとこの子にとっては“お母さんの遊び“に付き合ってあげているだけで、“自分が遊んでいる”感覚ではなかったのだと想像できます。遊びが子どもの「今の気持ちに合っているか」、子どもの「ペースに合わせていたか」もポイントですね。
ですが、ここで「せっかく遊んであげているのに!」と怒らずに、気がつくことができるお母さんは素敵です。そこまで考えてあげているご自分を褒めてあげてくださいね、とお話しました。

 子どもの興味、遊びは誰かに決められるものではありません。年少児に、「赤と青を混ぜたら紫になる」と教えて、絵の具を用意して「さあ、やってごらん」と言っても、子どもにとって楽しさは半減です。子どもはじっくりと見て、自分で試しながら見つけて、それを他の誰かにも教えたいのです。大人がつい言いたくなってしまう「こうやったらいいのに」をグッとこらえて、横に並んで「面白いね!」と共感したり、「そんなやり方があるんだ!」と子どもの真似をしてみるのも良いかもしれません。


子どもたちは遊びの中で自ら試し、何かを発見しながら楽しみを見出しています

 ご家庭にいる時間が長くなり「何をして遊んだら良いか分からない。」という方もいらっしゃるかと思います。子どもが自分で見つけた楽しみに、寄り添ってみてあげてください。子どもは自分のしたいことに、大好きなおうちの人が興味を持ってくれるのが嬉しいのです。そうは言っても、ずっと付き合うのは疲れてしまうと思うので、「今はこれをやっているから、これとこれが終わったら、あなたの所に行くからね。」と具体的に話してあげて、順番が来たら「待っていてくれて、ありがとう。」とお礼を言ってあげてください。

 おうちの中で遊びが見つからなかったら、何かを作る遊びもおすすめです。作ると言っても、大作でなくて、新聞紙やチラシをビリビリ破いて紙に貼り付けたり、何でも良いのです。
作ったり遊んだりしていると、きっと子どもの心が動く瞬間があると思います。子どもの心を動かす出来事は、大きな行事や特別な出来事ばかりでなく、日々の生活にもたくさんあるものです。子どもが興味をもったこと、面白がっていることを見逃さず、周囲の大人がその思いを受け止めてあげることが大切なのだと思います。
外に出るのも難しい状況ですが、今だからこそ、子どもと心を動かす出来事、遊びを共有してみるチャンスと捉えてみませんか。それは時には、意味のないことのように見えるかもしれません。でも、その積み重ねが、ある日突然形になるのを私たち教師は何度も見てきました。

 休園が続いている今、子どもたちの楽しい声が響き、一緒に泣いたり笑ったりする、今までの日常がどんなに有り難く、尊いものだったかと教師達はしみじみ感じています。
保護者の皆様や、子育て中の方々は、日々大変な思いをされていると思います。
「早くみんなに会いたいな」という思いを大切に、会えない分の想像力を働かせて、今の状況をなんとか乗り越えたいと思っています。
ベランダの紫陽花が咲く頃には、安心して過ごせる世の中になっているといいなと思います。

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