幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

 休園期間が長引き、お子さんと家庭で過ごす時間が多くなり、楽しいやりとりだけでなく、お子さんの甘えや要求にどう応えていけばよいのか、ちょっと疲れてしまうときもあるのではないでしょうか。
 本来であれば、4月、新入園の子どもたちと、こんなやりとりがクラスの中であったなあと思いを巡らせて、文章を書いてみました。
 子どもとのやりとりは無数にありますが、うまくいったり、いかなかったりしながらも、向き合いかかわる中で、子どもたちから多くのことを教えられているように思っています。

「子どもの発した言葉に共感する」
入園間もない頃、すぐに楽しく遊び出す子どももいますが、緊張している子は、ずっと無言で折り紙を握りしめていたり、好きなぬいぐるみを抱えてじっと周りを見ていたり、という姿も見られます。そんな時に、教師は、無理やり話しかけたりはせずに、そっと寄り添い、隣りで折り紙を折ってみたり、その子の好きそうな遊びを始めると、ふと興味を示してくれて、一緒に遊び始めてくれたり、「はい」と自分の折り紙をプレゼントしてくれたりします。「ありがとう!」とニッコリ笑うと、その子の固い表情がほぐれて笑顔になり、そんな時、心で『やったー!少しだけ距離が近づいた!』と思います。また、ある子が、自分の持つコップ袋の絵を見せてくれて「恐竜だよ」と教えてくれて、「この恐竜知ってる!ティラノサウルスだよね!」と話すと、「うん、そうだよ!あのね・・・」と止まらなくなるほど恐竜の話をしてくれたりします。
子どもが、何かに気付いたり感じたりして発した言葉に、教師はすぐに反応し、共感することを大切にしています。すると、子どもは、『嬉しい、自分の気持ちを理解してくれた、安心する』→だから『もっと話したい、もっと一緒にかかわりたい』という気持ちを持つことができて、人と人との関係性を深くし、ことば(語彙)の獲得に大きな力となります。この時に、表情も大事ですね。年齢が低いほど、表情や態度がオーバーリアクション気味でも子どもにとっては分かりやすく、嬉しさ倍増です。
但し、個性もあり、自分の気持ち(心情)を素直に言葉にできない子どももいます。「そんなのつまらない」「へんなの」など、マイナスな表現だったりします。それも一つの表現として否定はせずに、言い換えてあげるようにしたいと思っています。「そっかあ。今はやりたくないんだね。じゃあ次はいつやろうか?」「つまらなかったね。○○なら楽しいかな?」など、その子の今の気持ちに共感し、次の言葉を言いやすくなるように、問いかけたり、自分の気持ちを伝えて反応を見るなどすると、案外、コロッと変わったり、気持ちを切り替えて次の話を始めたりということもしばしば見られます(ダメな時はスパッと諦めて違う話題にします)。


自分の発した言葉に反応があると、子どもたちはもっと話したくなる

 「自分の思いを実力行使してしまうとき、子どもの思いが強いとき」
 3歳前半の時期は、まだ自己中心的で、保育室にあるおもちゃを自分が使いたいと思うと、取り合いになることもしばしば見られます。取られてしまって泣いている子には、「悲しかったね。欲しかったね」とその気持ちを代弁して共感することで落ち着きますし、取ってしまった子には「使いたかったね。でも急に取らないで、貸してって言うのよ」と伝え、言葉でやりとりすることを繰り返し体験しながら学んでいきます。そして、貸してあげられたり、もっと遊びたい気持ちを我慢できた時には、褒めて認めることで、譲り合うことや順番に使うことができるようになっていきます。
 様々な場面で、自分が使いたい、欲しい、今やりたい、など、子どもの欲求が強いと、大人も負けてしまいそうになることってありませんか?いつも近くにいるお母さんには、尚更、子どもも甘えてしまい、余計に大変ですね。例えば、保育の場面で、まだお庭で遊びたいと言い張り、なかなか部屋に入ろうとしない時があります。そんな時、「お部屋に入って、◯ちゃんの好きな紙芝居を読むから行こう!」「○ちゃんが見つけた虫を部屋にいるみんなに見せてあげよう!」など、その行動をした先にある楽しいことを伝え見通しを持たせてあげると、気持ちを切り替えやすくなったりします。ご家庭では、どんな場面があるでしょうか?例えば、もう寝る時間なのに、まだ遊びたいと言い張る時、それを理屈で言い聞かせてもまだ難しい時などあるかもしれませんね。「やりたいね、楽しかったね、でも次は絵本にして、好きな絵本一つ持ってきてくれる?一緒に読もう」というふうに、別の提案をしたり別の見通しをつけてあげることも良いかもしれません。そっちも面白そうだなと考え方を変えさせる、上手に先延ばしさせてあげられると良いなと思います。もちろん、そんなうまくいかないことも多いと思いますが、考え方としてはダメの一点張りでは子どもは余計に反抗してしまうかと思うので、上手に気持ちを切り替えられるように促すことかと思います。切り替えがうまく出来た時にはたくさん褒めて認めて、またうまくいかない時があって、ということを繰り返して、自己主張を言葉で伝え、時には抑えるというやりとりが出来るようになっていくのかなと思います。
 
 もしかしたら、この文章を読んで「うちの子は、一度言い出したらそんなに簡単には変わらない」と思われている方がいらっしゃるかもしれません。多くの子どもたちを見てきた経験から、お伝えしたいなと思うことは、先ほども書きましたが、私たちも「いつもうまくいく」とは思っていません。しかし、と同時に「この子はわがままでダメなんだ」とは決して思わない。常に何らかの子どもへの提案を探しながら接し続けています。そんな中で、その子が気持ちを切り替えることができた、更には笑顔でそれを楽しんでいる。そのことが私たちに与えてくれる喜びを、保護者の方とも共有できたら嬉しいです。

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