幼稚園生活
これはある日の登園後のホール遊びでの出来事です。年長組の何人かの子たちが積み木を使い、「タピオカ屋さん」を開店させようとしていました。1階、2階の順に外観が整ってきた頃に、Aくんが完成目前のタピオカ屋さんの隣に大きな積み木を置きました。それを見ていたBくんは「それはいらないでしょ。」とAくんに言いました。するとAくんは「タピオカ屋さんの隣にshowを作りたいんだ。」と答えました。今度はBくんが、「違う!タピオカ屋だけを作りたいんだ。」と強く主張していました。お互いに自分の意見を信じ、必死に相手に伝えようとしますが、意見を譲れないままでした。本来年長の2人であれば教員が間に入り代弁したり援助せずに二人で折り合いをつけられる力があるはずですが、なぜ折り合いをつけなかったのでしょうか、、、?それにはお互いに譲れない大きな理由があったからです。Aくんは、「お店とshowをつなげた方がお客さんがくるでしょう。」Bくんは、「お店もshowもやってしまうと店員さんが大変になっちゃうよ。」そう言う2人のやり取りを間近で見ていた私は2人の意志の強さを感じました。2人には異なった目的があり、そのためにはどうしてもお互いに意見を譲れない状況でした。なので「なるほどね、A君のshowを作るのも面白そうだし、B君が言うようにタピオカ屋さんに力を入れるのも良いよね。」と私は2人の気持ちに共感しました。そのうえで「どうしたら2人が良いものをつくれるかな?」となげかけました。すると2人は少しずつ興奮もおさまり、話し方が変わってきたり相手の言葉を聞こうとする姿勢がみえました。2人は自分が考えている遊びをしたいと熱くなると同時に、相手の雰囲気や空気感を感じることもできていたのです。それから少ししてお片付けの時間がやってきて教員から声がかかりました。するとAくんは「もう時間ないじゃん」と声をあげ、showの続きではなく「タピオカ屋さん」を作り始めました。AくんはBくんに説得されたわけでもなく、渋々諦めたわけでもなく、急いでお店づくりを再開しました。
「何故showを作らなかったの?」と理由を聞いてみると、「showも作ると片付けに時間がかかって外に遊びに行けなくなっちゃう。」とAくんは言いました。自分の意見を貫き通すのではなく、先を見通して、限られた時間の中で出来ることを考えているようでした。最終的には自分の意見を取り下げて、B君の気持ちに寄り添いながら2人で協力して一緒にお店を完成させることを選んだのです。
後日2人は同じ場所で「フルーツ屋さん」を開店させました。先日の遊びが楽しかったからこそ同じ場所に戻って来たのではないのでしょうか。