幼稚園生活

最近の出来事

 5月26日(月)、年長組で造形活動をおこないました。講師は幼稚園で造形の時間を担当いただいている彫刻家の高橋智力先生です。今回の造形活動ではボールペン・定規・色鉛筆を使ってお絵描きをしました。
 「今日の作品作りでは2つのあそびをするよ」。智力先生の呼びかけで造形の時間スタートです。1つ目のあそびは「見たまま描く」こと。高さ20㎝・直径15㎝ほどの円柱形の発砲スチロールをモデルに、ボールペンでスケッチしました。「人によって見方が違うから、それぞれ違った形でいいんだよ。自分で見えたと思ったものには正解、不正解はないよ」という智力先生の言葉に安心した様子で、子どもたちは置物を手にとったり、じっくり観察したりしながら、いつもより少し慎重に描き始めました。続いて2つ目のあそびは「定規を使ってまっすぐ線を描く」。最初に描いた絵の上を避けながら、紙の端から端まで定規を使って直線を引いていきました。「何本でも描いていいよ!」智力先生の呼びかけで、複雑に交差する線を定規を上手く使って何本も引いていきます。最後は色づけの時間。仕上げに色鉛筆で色を塗り、作品を仕上げました。
 今回は「ボールペンの“ボール”ってどこにあるの?」「どうして色が出るの?」といった問いに触れ、実際に描く感触を体験しながら、ボールペンに親しんでいきました。古代から人々が使ってきた便利な道具「定規」の役割についても学び、「まっすぐな線を引く」だけでなく「線の長さを測る」という使い方も体験しました。造形活動を通して、作品を完成させるまでの過程を楽しみながら学び、個性あふれる素敵な作品がたくさん出来上がりました。

  • よく見て、触って形を確認します
    よく見て、触って形を確認します

  • いつもより少し慎重なスタート
    いつもより少し慎重なスタート

  • 作品作りに集中して取り組んでいました
    作品作りに集中して取り組んでいました

  • 定規でうまく線をひくコツも教えてもらいました
    定規でうまく線をひくコツも教えてもらいました

みんな夢中になって線を引いていきます

  • 智力先生にアドバイスをもらいながら作品作りを進めます
    智力先生にアドバイスをもらいながら作品作りを進めます

  • 続いて色鉛筆で色を塗っていきます
    続いて色鉛筆で色を塗っていきます

  • 交差する線でできた形を様々な物に見立てて色を塗る子も
    交差する線でできた形を様々な物に見立てて色を塗る子も

  • 定規を使って長さを測る経験もしました
    定規を使って長さを測る経験もしました

ともりき先生よりひとこと
自分が見て思ったことを表現し、誰かに伝える。使われる手法はいくつもあり、それは時に言葉であったり、身振り手振りや全身を使ったもの、歌や音、そして今回の様に描いてみたり。そしてただ描く方法にもまた、たくさんの手法があります。
加えて描写技法を支えるツールについても、実に様々で、それらを実際に手に取り体験することで「出来る、出来ない」ではなく、『描き味の違い』や『使い心地』といった体験感覚の部分に焦点を合わせた活動が、様々な物への興味をさらに深く掘り起こすきっかけづくりを意識しています。

興味心を持って周りをくるりと見渡せば、視界に入る全てのものが実に面白いものばかりで溢れています。
この日活動の為に用意した発泡スチロールの円柱も、興味を持った事柄次第で作品表現が大きく変わります。このあたりも、今回の作品達のひとつの見どころとなっていますので、その幾つかの例を共有しておきます。

ひとつめ。視覚と触覚の差異について。
真横面から見た円柱は、長方形に見えるはずですし、円柱を真上からみるとまん丸の形として見えるはずです。それなのに、長方形の場所を実際に撫でると、その手のひらにはラウンドした丸を思い起こさせる感触が感じ取れ、今度は丸いはずの円の部分を撫でると、方形を連想させる平たい面の感触が手から伝わって来ます。
単純に描けると思った円柱は、こんな体験後にペンを手に取ると、最初に思っていたよりも手強い相手に感じた子ども達も多かった様です。

ふたつめ。ボールと発泡ビーズ。
円柱デッサンの為に用意したボールペン。活動のはじめにボールペンの「ボール」が、ペンのどこにあるのかをみんなで探しました。ボールペンを上や下、横から覗き込んだり回したりしている中で、じぃーっとペン先をしばらく見つめた子どもがひとり。ペン先に注目したまましばらく固まっていたかと思うと「あーっ!!あったあ!!!」という叫びにも近い声が聞こえて来ました。自ら持つ小さなペン先のボールを指さす笑顔が、とても心に残るひとコマでした。この声を皮切りに「ホントだ!」「ここだっ!」という声が次々にあがります。
そして、生い立ちを確認し終わったボールペンを使っての円柱デッサンが始まりますが、この日使用した円柱は、素材が発泡スチロールで出来ています。このスチロールは、小さな発泡ビーズがポップコーンの様にポンポンと膨らみスチロールとなった物です。切り出された面にはこの発泡ビースの断面が目視できます。円柱のアウトラインを描いた後にスチロールの表面の素材感を描いた様な連続した模様がいくつかの作品に見受けられますが、ボールペンのボールの発見体験により、いつの間にか目で見ているものの解像深度に変化があったのかもしれません。

最後にこの作品のテーマ部分となるコントラストについて。
定規は、人類が火を発見し使いだしたのと同じくらい長く使われ続けて来たそうです。人類の最初に使い出したツールと、人類の最後の方に使い出したボールペンが描き出す時間軸的なコントラスト、手描きの円柱の柔らかな線と定規で引いたまっすぐで機械的な線のコントラスト。その他にも色々な対比が存在します。どんな対比、コントラストが隠れているかを見つけ出しながら、親子で作品を鑑賞しながらの対話のひとときを楽しんで頂ければ嬉しいです。

(造形活動講師・高橋智力)

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