幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

  • 前の記事
  • 2022.03.09

    日々の積み重ねがつなぐ大きな成長~ひなまつりの様子から~

  • 次の記事

 3学期に入ってすぐにリモート保育となっていましたが、2月中旬から成城幼稚園に賑やかな声が戻ってきました。登園再開から終業・卒園まで約1か月という短い時間の中で、今日も元気な子どもたちは行事が目白押しの日々を送っています。
 特に一大イベントである3月3日のひなまつりでは、それぞれがお雛様とお内裏様の製作をし、当日はホールの舞台で表現・劇の発表をします。私は初めて経験した年度末の集大成ともいえるこの行事を通して、子どもたち一人ひとりの成長を感じました。
 今回は驚かされた年長組の子どもたちの様子についてお話しします。

 年少組は子どもたちの姿に合わせて教師が考えたストーリーに入り込んで表現あそびを、年中組は動物など自分の好きなものになりきって劇あそびをします。そして年長組はお話を自分たちで一から考え、配役やセリフ、小道具などを準備して劇を作り上げます。

 舞台袖で早着替えのサポートをしていると、出番を待ちながらとても緊張している様子が分かります。ソワソワして落ち着かない子ども、興奮しておしゃべりをしてしまう子ども、じっと舞台を見つめる子ども、その姿を見ているだけでこちらも緊張してしまうほどです。

 しかし、勇気をもって舞台へ踏み出すと、しっかりと自分の役柄を演じ、お客さんには背中を向けないこと、友達と被らないように立つことなど、ここまで練習してきた中での学びを生かしてステージに立っていくのです。他の友達がセリフに詰まってしまった時も、率先して声を出し支え合う姿は、とても大きくたくましいです。この1年間も年長組の子どもたちにたくさん頼り、助けてもらってきたことを思い出し、「さすが年長組、かっこいいな」と思わずその背中を見つめてしまいました。
 また普段の生活では控えめな子どもが大きな声で積極的にセリフを言う姿に、「この子にはこんな素晴らしい得意分野があったのだ」「こうやって伸びていくのだ」と、とても嬉しくなりました。幼稚園での出来事は好きなことばかりではないかもしれませんが、様々な分野に挑戦することを通して、一人ひとりが自分の“好き”や“得意”を見つけて伸びていってほしいと願います。

 前日の練習が終わってから、担任の教師が「緊張しちゃった人?」と聞くと、多くの子どもたちが手を挙げました。その時に一人の男の子が「俺は全然緊張しなかった」と言っていました。「それはすごいね、たくさん練習して自信があるってことじゃないかしら」と話すと「だって昨日の練習で自信が付いた」と言うのです。その表情は、練習したから大丈夫という自信と、また本番への楽しみな期待感とで、本当に輝いていました。
 当日、劇の本番を終えると、「緊張した」という声も多くありましたが「お客さんに観てもらって嬉しかった」「自分のシーンで笑ってもらえてよかった」と、興奮して話してくれました。これまで年少・年中として年長組の劇を観てきた子どもたちは、当時そのお兄さんお姉さんの姿に憧れてきたようです。練習の成果を発揮したいという気持ちに加えて、今度は自分たちがあのとき憧れていた年長として頑張ろうというプレッシャーもあったことと思います。その中で自信をもって舞台に立ち、最後までやり遂げた子どもたちは、現年少・年中組から憧れの眼差しで見つめられる年長組となっていました。1・2年前はできなかったことや憧れがあったぶん、達成感を味わい、大きな経験をしたのだと思います。

 登園が再開してから教師が焦るほどに時間のない中で、練習を重ねてきた子どもたち。日々の練習の積み重ねを通して、大人が目に見えて感じる変化よりも、もっと深い子ども自身の中で、確実にその劇を作り上げ自信をつけていったのだろうと、感動します。「子どもたち、なぜか本番に強いのよね」と職員室で話題になっていたことは、こういうことだったのかもしれないと分かった気がしました。

 年長組はお花紙で作った花の台の上に、折り紙を蛇腹折りにして重ね、千代紙の着物を着せたお雛様とお内裏様をのせるという、大人の私でも時間がかかる複雑な製作に挑戦しました。製作に取り掛かる前に、実際の雛人形をよく見て、三人官女・五人囃子などの説明を担任から聞きました。そして、作り方の説明の際、「これは難しいから年長さんにしかできないかも、大事だからよく聞いてね」という担任の声に、集中した眼差しで聞き入る年長組の子どもたち。そのぐっと集中した空気感は、今までに体験したことのないもので驚きました。
 自分の話したい、やりたい気持ちを抑えて、全体のお話を聞くということは、興味関心で溢れている子どもたちにとって簡単なことではないと思います。「あのね、僕ね~!」「ねえ聞いて!」と伝えたい思いがたくさんある子どもたちに対して、教師としては一人ひとりじっくりと向き合いたい気持ちがありますが、「今は先生の番ね。」と話さなければいけないことも多くあります。どうしたらメリハリをもって先生やお友達の話を聞くことができるのかが課題になります。しかし、今までの3年間、クラスで集まって先生や友達の話を聞くことを繰り返していく中で、ここまで「聞く力」が育っていたのだなと感じた場面でした。

 子どもたちと過ごしていると、いつの間にこんなに成長したのかと驚くことばかりです。ここでは取り上げなかった年少・年中組も、ステージでクラスのみんなと合わせて動いたり、自分でアイデアをもって表現したりと、「あれ、こんなことができるようになっていたのだ」と感動しました。成城幼稚園の教師となってもうすぐ1年が経ちますが、その成長するスピードを目の当たりにして、大人の私はどれほど成長できただろう、私も頑張ろうと励まされ、子どもたちのおかげで刺激的かつ幸せな日々です。

 感染症対策のため午前保育が続き、とても短い準備期間でひなまつり本番を迎えましたが、これまでの日々の経験が子どもたちの中でしっかりと積み重なって今の姿があるのだと感じる行事でした。今年度も残り数日となりましたが、小さな経験からも多くのことを学び、知らない間にできることが増え、ぐんぐん成長していくお子さんたちにとって非常に貴重なひとときを、大切に過ごしてまいりたいと思います。

コラム「たいこばしくん通信」一覧

page top