幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

「はるがきてうれしいね」
 ある日の帰り際、1人ずつお話ししたいことを聞く時間にそんな発言がありました。

 いつも自分のお話を一生懸命にしてくれる子どもたちですが、年中組になってから「話す番と聞く番があり、誰かのお話を聞くこと(相手の思いに耳を傾けること)も大事」ということを経験するため、集まりの中で1人ずつ順番に発言する機会を設けてきました。

 自由遊びを終えてお部屋に帰ってきたとき、「どんな遊びをした?」と聞いたり、音楽や劇を鑑賞した後に「何かお話ししたい気持ちはある?」と問いかけたり、1日の最後にはみんなに聞いてもらいたいことや見せたいもの(主に製作した絵や工作、できるようになったこと)を発表したり、自分の知る言葉を用いて懸命に伝えようとしてくれるその時間は、私にとって幸せなひとときです。

 初めのうちは、自分の話を聞いてもらいたい!という気持ちでいっぱいで、順番を忘れてしまうこと、思わずお友達と話し出してしまうこと、あるいはドキドキして俯いてしまうこと、何を言うのかわからなくて困ってしまうことばかりでした。

 その度に、「声じゃなく手を挙げてお話ししたい気持ちを教えてね」「今はAくんの番だから、Bくんは聞く番だね」「おしゃべりしていると、せっかくお話ししてくれている子の声が聞こえなくなっちゃったね」と教師が伝え、どうしたらいいかみんなで考え、日々練習を重ねました。
ドキドキしたら小さな声でそっと先生に教えてもらったり、表現する言葉が見つからず困ったら「うれしい気持ちってことかしら」と代弁したりしながら、少しずつ話すことにも慣れていきました。

 そして次第に、順番を待てば自分も話せることやクラスの皆に話を聞いてもらえる喜びを覚え、集まりとして成立してくるようになりました。初めは時間を要するため、教師も子どもたちも根気が必要でしたが、みんなで積み重ねてできるようになった姿のひとつだと、今では感慨深い成長です。

 さて、3月初めのある日も、「今日はどうだった?」と問いかけたところ、聞くことも話すことも上手になった皆は次々と手を挙げ、遊んだことや感じたことを教えてくれます。「氷鬼がたのしかった」「きのうおでかけに行ったよ」など、思い思いの発言が続く中、1人の女の子が「あのね、春になってよかったなっておもった。春がきてうれしいね!」と発言したのです。
その瞬間、なんだかクラス全体がふんわりとあたたかくなりました。

 彼女の発言を受け、どのことを指しているのか、具体的に何が言いたいのだろうかと質問しようか迷いましたが、「そうだね、先生もとってもうれしい!春がきて、うれしいね!」と受け止め、そのあたたかな雰囲気を味わうことにしました。

 その後も何人かから同じように、「春がきてよかった」という声があり、みんなでその気持ちに共感して幼稚園での1日を締めくくった出来事でした。

 子どもたちにとって春とはどのようなものであり、何が「春が来た」と感じさせたのでしょうか。
2月の終わりから3月になって急激に気温が上がり、心地よい暖かさの戸外で遊んだら汗をかくほど暑くなったことや、自然あふれるこの園で、ふきのとうの芽が出て、虫たちが目覚め、心地よく吹いた風に気付いたこともあるでしょう。

 そして私が考察するひとつに、自分たちで種を蒔き球根を植えた植物たちの成長がありました。
 まだ寒かった頃、プランターにラディッシュの種を1人ずつ蒔き、クラスのみんなで球根を植えました。そして種や球根を観察しながら「春にはどんなお花が咲くのかな」と話し、先頭さん(クラスで順番に回ってくる当番のような係)の人が順番に水をあげてみんなで育てることにしました。子どもたちは自然と「おおきくなあれ!おおきくなあれ!」とお花たちに呼びかけて、植えたその日の帰りには「もう伸びたかな?」という微笑ましい声もあるほど、春に素敵なお花が咲くことを楽しみにしていたのです。

 それから「ねえ先生、今日の先頭さんはちゃんと(水やりを)やった?」と毎日気にしてくれるようになったAちゃん。彼女はシャイで自分からの発言は多くないタイプでしたし、初めは担任や友達との距離も慎重にとっているようなお子さんでした。そんなAちゃんが自ら私に笑顔で話しかけてくれ、先頭さんを把握して声をかけに行く姿に、いつの間にまわりのことを見て自ら行動できるようになっていたのだろうと驚いたと同時に、彼女にとってこのことが日々の楽しみになっていることが嬉しくなりました。

 プランターを覗いていると、次第に他の子どもたちも集まってきて、落ち葉をどかしてあげたり、「おおきくなあれ」と声をかけてくれたり、たくさん可愛がって見守り、育てていきました。そして小さな芽が顔を出したとき、葉っぱが増えたとき、赤く色づいたつぼみが見えてきたとき、その度に声をあげて大喜びし、ついに「お花が咲いている!」と気が付いた日にはクラスで報告し合う姿と、達成感を味わっているような子どもたちの豊かな笑顔があったのです。

 春がきてうれしいねという発言があった日も、あたたかな日差しに綺麗なお花が咲いていました。
そこに集まっていなくても、お花が咲き始めていることは知っており、登降園でおうちの人に報告するなど、それぞれが気にかけていたようです。

 他にも「春になると年長さんが卒園して皆は大きい組になるね」と話したり、「大きくなってこんなことが上手になったね」と話したりしてきたことから、自分たちの中で何かできるようになったという達成感や喜びが「春になってよかった」という言葉に表現されていたかもしれません。

 1年間このクラスで過ごしてきて様々なことがあり、嬉しいことも頑張ったことも、時に思うようにならないことも経験してきた子どもたちです。
課題に直面したときにはなるべくクラスで話し合いをし、子ども自身が考えて悩み合ってきました。正解はひとつでは無く、一人ひとりが違った考え方を持って集まっているからこそ、自分だけでは気が付けないことに気付くことができます。そうやって様々な場面を乗り越えていけること、クラスという集団がそのような存在であってほしいなと願いながら、集まりの時間を過ごしています。

 うまく言葉にできなくても自分なりの表現で伝え合い、「はるがきてうれしいね」という気持ちを認め合い、共に喜べる集団でありたいと改めて思わされました。
厳しい寒さが過ぎ、あたたかな春がやってくることは、自然と心が明るくなり前向きで優しい気持ちになれます。別れも始まりもありますが、この春を迎えた子どもたちが、自分の成長に気が付き、それを喜びながら新たな季節へ期待をもってくれていることを願います。

 今年度も「たいこばしくん通信」をご愛読いただき、ありがとうございました。
 前回からしばらく間が空いてしまいましたが、成城幼稚園の子どもたちの、日々の生活・成長の様子を今回も感じ取っていただけたら嬉しく思います。

 来年度も、どうぞよろしくお願いいたします。

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