幼稚園生活

コラム「たいこばしくん通信」

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  • 2019.06.17

    早く赤くなぁれ ~ミニトマトの栽培~

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 成城幼稚園では、毎年様々な野菜の栽培、収穫体験を行っています。春は竹の子、夏はきゅうり・ミニトマト、秋にはさつまいも、冬はブロッコリー・チンゲン菜などを育てたり、収穫したりしています。
 今年度、年長組では一人一個植木鉢を用意し、自分たちでミニトマトの栽培をしています。
「自分のミニトマト」ということで、愛着を持っており、子どもたちは毎日とてもよく世話をし、観察しています。毎日自分の鉢を眺める中で、トマトの実は下の方から赤くなってくること、緑→橙→赤と徐々に色が変わってくることなど、様々な変化に自ら気がついていきました。
 友達のトマトが次々に赤くなり、収穫されていく中で、自分のトマトが赤くなるのをずっと心待ちにしていた人もいました。A君のトマトの実は、1つ目が赤くなるまでに時間がとてもかかりました。そんな中でも、A君は、「今日は下半分が橙で、上が緑色の実が一つ出来ていたよ」、「今日はほとんど橙になっていたけど、まだ赤くなかったよ」と、一つの実に注目して毎日観察し、私のところへ状況報告をしにきてくれました。また、遊びの時間には、トマトを観察して絵を描いたり、画用紙や折り紙を使ってトマトの立体製作をしたりして過ごしていました。友達のトマトの生育状況と比べるのではなく、毎日自分のトマトと向き合い、観察することで、小さな変化に喜びを感じ、楽しみながらも粘り強く収穫の時を待ち望む姿がありました。
 いよいよトマトが赤くなり収穫出来そうになった日のことです。朝登園後、すぐにトマトの様子を見に行き、大喜びのA君。教員に声を掛けて知らせ、収穫の時を迎えました。嬉しそうな中にも、少し緊張した様子が見られました。自分が毎日見守り続け、大切に育んできたトマトを遂に収穫するからです。A君はこの日をどれだけ待ちわびていたことでしょうか。収穫したトマトを嬉しそうにじっと眺めるA君の表情が今も胸に残っています。
私は、「やっと採れたね。食べるのが楽しみね!」とA君に声を掛けました。するとA君は、「僕は今日は食べないでとっておくの」と答えました。待ちに待って漸く採れたはずのトマトを何故食べないのかとびっくりしてA君に尋ねました。
「折角採れたのにどうして食べないの?」
するとA君は、「僕は家族が沢山いるから、みんなで一緒に『いただきます』できるようにしたいの。だから、他の(家族の)みんなの分が採れるまで食べないで待っているんだ!」と言ったのです。A君がトマトの収穫を心待ちにしていたのが分かっていただけに、この言葉を聞いて私はとても感動しました。 この日A君は、収穫したトマトを家に持って帰りましたが、家族の分も収穫出来るようにと、引き続き毎日トマトを見守り、大切に育てています。
 自分自身の喜びを、一人だけのものにするのではなく、誰かにも分けてあげたいと願うA君の優しい気持ちに、心が温かくなった出来事でした。

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