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  • 2019.03.19

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 中学校卒業証書授与の会 式辞

    出たとこ勝負

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 卒業おめでとう。
 成城学園は中高一貫校ですから、卒業と言ってもほとんどの人はそのまま学園高校に進学します。そういう点ではあまり大きなできごとではないように感じている人もいるかもしれません。
 しかし、区切りとしては皆さんも知っている通り、義務教育である中学校から、そうではない高等学校に移るわけですから、決して小さなものではありません。
 学校教育の制度から言うと、中高を併せて、中等教育と呼ばれていますが、皆さんはその後半戦に向けてひとつの区切りをつけることになります。
 サッカーやラグビーのようなタイプのスポーツでは試合が前半と後半とに分かれていますよね。ときどき前半と後半とでは全く違う試合内容になることがあります。前半に優勢だったチームが後半で劣勢に立たされたり、逆に負けていたチームが大逆転を起こしたり、などということもあります。
 ですから、皆さんもこの中学卒業という区切りを大切にして、前半戦がうまく乗り切れた人は油断することなく、また前半戦が不本意だった人は挽回できるように、後半戦で自分の力を大きく伸ばして行ってください。明日からハーフタイムに入るキミたちに、少し話をしたいと思います。

生物として最も重要な目的は子孫を残すということです。これはタンポポでもクワガタでもカバでも人間でも同じです。自分自身が賢く強く生きて、生きている間に子孫を残していく。それこそが生物に課された宿命と言えます。
 私には子供がいません。つまり子孫を残すことができませんでした。しかも、一人っ子で兄弟もいませんから、私の体の中にある遺伝子は私を最後に終わってしまいます。個人としては特に後悔はしていないのですが、生物としては残念な結果となりました。
 それに比べて、キミたちのお父さん・お母さんはキミたちという立派な子孫を残すことができました。異性として魅かれ合って結ばれたわけですから、お二人は互いに素晴らしい才能があると認め合ったということになります。おそらく私より15歳くらいはお若い方が大半だと思いますが、生物として優れている、俗な言い方をすると、いわゆる勝ち組というわけです。
 すなわちキミたちはそういう優れた遺伝子を受け継いだ優秀な人たちということになります。生物として次の時代まで生き延びることのできる素晴らしい才能を秘めているわけです。ですから、キミたちには必ず何かしらの才能があります。才能がなければ、生物が進化してきた何億年のなかで、あるいは人類の何千年の歴史の中で間違いなく滅びてしまったからです。難しい言葉では淘汰と言いますが、キミたちがそこに存在するということ自体が、キミたちに才能があるということを証明しています。淘汰されなかったということは、何らかの強さをもった遺伝子が備わっているからです。
 ところが才能というのは不思議なもので、正反対の性質どちらもが優れているということがあります。簡単な例を挙げてみましょう。
 たとえば体が大きいということは間違いなく才能の一つです。大きければ力も強く、闘いにも有利です。狩猟採集の時代などでは、獲物をたくさん手に入れて、そのことで周りからも一目置かれるようになったでしょう。現在でも政治家などでは恰幅の良い大柄な人がリーダーとなることが多いようです。
 ところが実は身体が小さいということも、生き延びるには重要な才能なのです。身体が小さければ、消費するエネルギーも小さいので、たくさんの食糧を必要としません。食物が手に入りにくい時代に生き延びることができたのはこういう人たちです。しかも体が軽いので、膝や腰を傷めることも少ない。現在でも寝込まずに長生きしている人に小柄な人が多いのも頷けます。
 すなわち、身体の大きさという単純なことだけでも、大きいことが才能とも言えますし、小さいことが才能とも言えることになってしまいます。どういう時代に生きているのかにもよりますが、それぞれに生存に有利な側面があるわけです。
そう考えてみると、自分の才能を見抜き、その才能にあった生き方をすることが最も重要だということになります。
 才能というと、皆さんは語学の才能、音楽の才能、数学の才能などと思い浮かべるかもしれません。もちろんそれらも才能の一つだとは思いますが、いま私が言ったようなこと、身体が大きい。遠くまで見える。足が速い。大声が出せる。なんていうのも才能だと私は思います。自分にはどんな才能があるのか、ハーフタイムを使ってぜひ考えてみてください。
 みなさんはこれまで学校という世界で生きてきましたから、才能というとどうしても勉強などの枠組みに縛られて考えてしまうでしょうが、実際の社会では例えば数学の才能、地理の才能、物理の才能、などというものが直接に役立つことは余りありません。
 数学の力を応用して、たとえば、何をどれだけ仕入れたら、どの程度の儲けになるか判断するなんていうことはあるかもしれません。ある地方で災害が起きたとき、どうやったら物資を届けやすいか検討する時に地理の知識が役に立つことはあるかもしれません。
 でも、大概の大人にとって必要なのはもっと別の才能です。学力よりも役に立つ才能がたくさんありますし、それが社会の中では重要になります。
 仲間と協力する才能。困った時に周りから助けてもらう才能。嫌なことがあってもめげない才能。好きなことにトコトン挑戦する才能。相手を言い負かす才能。危険を察知し逃げ出す才能。病気に打ち勝つ才能。考え始めたらキリがありません。
 そうなると、学校で学ぶことは才能を磨くのにたいして役に立ってないのでしょうか?
 いいえ。そんなことはありません。いま私が挙げた例を、良く考えてみてください。実は皆さんが知らず知らずのうちに、学校で経験し、身につけていることばかりです。誰かを助けたり、助けられたり、友達と喧嘩をしたり、つらいことを乗り越えたり、部活で真剣に頑張ったり、そういう経験がキミたちの、もともと持っていた才能を花開かせていくわけです。学校は勉強する場所ですが、勉強だけなら、家で本やテレビやインターネットを利用してやることのできる時代です。実際に最近は通信高校の人気が高くなっているとも聞きます。
 でも、わざわざ毎日、学校に足を運んで、大勢の人間が同じ教室に集まって、勉強をする。そこには勉強そのもの以外のたくさんの意味があるわけです。そして実生活に於いては、今日お話ししたとおり、勉強以外の学校生活も、ものすごく大事で、それによって皆さんは生物として、あるいは人間として生き延びる才能を知らず知らずのうちに鍛えていくわけです。すなわち学校生活では授業と同様に休み時間や放課後も、とても貴重な成長の場なのです。
 さて4月からは中等教育の後半戦がスタートします。勉強は言うまでもありませんが、それ以外の場面でもぜひ全力で、そして楽しく過ごしてほしいと思います。楽しく生きるという最も大切な才能が溢れ出していくことを願っています。
 ところで冒頭に話した内容から考えると、生物でもあるキミたちにとっては、異性にモテる、あるいは優れた異性を見抜く、なんていう才能もこれからは重要になるのでしょう。後半戦の3年間はそんなことにも視野を広げられると良いのかもしれません。

 保護者のみなさま、本日はお子さまの中学校ご卒業、おめでとうございます。そしてこれまでの成城学園に対するご支援ご協力に感謝申し上げます。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。
 3年間はアッという間だったとは思いますが、振り返ると様々な出来事とともに、お子さまの成長をお感じになられるのではないでしょうか。もう、彼らは子供とは呼べない年齢になりました。これからはぜひ一人前の人間として、接してあげてください。自分の足で歩かせてあげてください。
 さあ、みんな。中学校卒業。おめでとう。でも、すぐに後半戦のキックオフです。頑張って。以上。