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  • 2017.04.08

    ブログ「出たとこ勝負」特別編 石井校長 中学校入学式 式辞

    出たとこ勝負

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(挨拶部分省略)
 皆さん、幸せですか?何を当たり前のことを聞くんだとお思いでしょうね。小学校を無事に卒業し、希望に満ちて中学の入学式に臨んでいるわけですから、幸せでないわけがありません。それでもあえて聞きたいのです。皆さん、幸せですか。
 こんなことを聞くのは、あるニュースが目に留まったからです。先日、国連とアメリカのある研究機関が共同で各国の幸福度ランキングを発表しました。皆さんの中にも、ニュースで見た人がいるかもしれません。さて、日本のランキングは何位だったでしょう。ちなみに第1位、最も幸せな国は北欧のノルウェー、最下位の155番目は中央アフリカ共和国です。私はどちらも行ったことがありません。興味はありますが、たぶんこれからも行くことはないでしょう。さて日本ですが、だいたい上から3分の1くらい、51位でした。
 私はちょっと意外な感じがしましたが皆さんはどう思いますか。日本は、第二次世界大戦後はおおむね平和が保たれていますし、それほど激しい差別はない。経済的にもまあまあ安定していますし、文化も成熟しています。日本より上位にある国と比較してみて、不自然な感じを受けました。たとえばサウジアラビアは37位です。確かに石油に恵まれ、経済的には豊かなのでしょうが、イスラム教以外の宗教を信じることは禁止されていますし、公立の学校では女子がスポーツをすることも禁止されています。そういう国の方が、ランクが上なのは何だかしっくりこない。また中米にあるニカラグアは43位です。治安も悪く、麻薬がはびこっていると聞きます。それでも順位は日本より上です。幸福度を表すグラフから日本のランクを下げているのは、社会に寛容さがないこと、汚職があること、男女の格差が大きいこと、人生の選択肢が少ないことなどが読み取れますが、さきほど引き合いに出した国と比べて特別劣っているとは思えません。
 もちろんこのランキングは個々の人物の幸せを示すものではありません。日本の中にも幸せに満ち溢れている人もいれば、不幸にさいなまれている人もいます。このレポートは社会の仕組みやその国の文化、広い意味での環境が、国民を幸せにできるかどうか、その可能性が高いかどうかを表しています。残念ながらそういう点で日本は他の国から見たら幸せそうには見えないのかもしれません。
 実はこのレポートに目が留まったのは、私が幸せについて大それた考えを持っているからだと思います。「学校は生徒が幸せになるために存在する」と私は考えています。3年後、中学を卒業するとき、6年後、高校を卒業するとき、キミたちが今より幸せになれる力を身につけていること、それが、私が教師をやっている目標です。
 成城学園中学校高等学校は学校としてキミたちに目標を与えることはしません。学校によってはたとえば有名な大学に生徒を入れることを第一の目標にしたり、スポーツの全国大会に出場させることを目標にしたりということがあります。しかし成城学園は個性尊重を第一に大切にしてきた学校です。生徒全員一律に目標を設けて、そこに向かって突き進んでいくというタイプの学校ではないのです。では目標がないのかというとそんなことはありません。自らの人生を力強く切り開いていける能力と、小さなことにも心を動かせるしなやかな感受性を生徒諸君が身につけていくこと、それがこの学校の目標なのではないかと思っています。そしてそれを私流に言い直すと「幸せになるためのトレーニングをする学校」ということになります。抽象的だと笑われそうですが、ほかの言い方が今は思いつきません。
 先ほどこれを「大それた考え」と言いましたが、それは皆さんに対して学校がやれることは限られているからです。一般的には知識や技術を伝えることが学校の第一の役割です。そして色々な体験のできる場を提供すること、これも大切です。でもやれることはその程度です。その中で目標を達成するのは至難の業のように感じることもあります。でもキミたちの先輩である卒業生たちと話をしていると、何とかやれているのではないかなぁと少しホッとします。どんなときに幸せを感じるのか。これは人によって全く違うでしょう。何かを成し遂げた時、誰かと心が通じ合った時。安心した時。褒められた時。この学校には皆さんが幸せになる力を身につけるための、たくさんのプログラムが用意されています。

 そこで今日は学校生活の中で幸せになるための3つ心構えをお話しします。
 ひとつめ。「自分を大切にして下さい」。これがないと決して幸せになれません。「自分を大切にする」なんて当たり前のことじゃん。誰でもやってるよ。と思うかもしれませんが、中高生を見ていると、そうとばかりは言えません。周囲に気を使いすぎて自分の心や体を傷つけてしまったり、やけになって自分を見失ったりもします。逆に調子に乗って自分の未来を傷つけてしまうこともあります。何か行動を起こすとき、それは自分にとってプラスになるのかマイナスになるのか、真剣に悩む必要があります。
 二つ目。「周りの人を大切にしてください」。周りの人がみんなつらい思いをしている中で自分だけが幸せになれるということはありえません。周りの人の苦しみは自分の苦しみでもあるからです。大勢の人を幸せにすることはなかなかできませんが、家族や友人など自分の身の回りにいる人を大切にして、そこから幸せの輪を広げていくことはできます。
 最後は「他人と比べない」ということです。同じことを体験しても、それを幸せだと感じる人もいれば、不満に感じる人もいるでしょう。幸せを感じることのできない人の多くは、他人と比較ばかりしている人のようです。彼の方がハンサムだ。彼女の方が頭がいい。あいつの方がお金持ちだ。そんなことばかりを気にしてしまいます。
 でも考えてみてください。皆さんには生きているだけで無限の価値があります。それ以外のことはすべて小さなことです。小さなことを比べて、クヨクヨしても意味がありません。そういう点では冒頭でお話しした幸福度ランキングなんていうことがそもそもバカバカしいことに思えてきます。
 学校では毎日いろいろなことが起きます。それは小学校時代を思い出してくれればわかりますよね。この学校には楽しいことがたくさんありますが、もちろん楽しくないことも起きます。その時、今日お話しした3つのことを思い出してみてください。自分を大切に。周りを大切に。他人と比べない。たいがいのことはこれで乗り切れます。
 幸せになるためにここで学んでいる。みんながそう思ってくれるように私も努力します。
 世界で51番目なんて言わせない。世田谷区の一角に、みんなが幸せになる力を身につけられる学校があるんだ、そう言ってもらえるよう、お互いに頑張っていきましょう。
(挨拶部分省略)