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  • 2017.02.14

    言葉の筋トレ16 白だ黒だとけんかはおよし 白という字も墨で書く

    言葉の筋トレ 石井弘之

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第16回

白だ黒だとけんかはおよし 白という字も墨で書く

昔の都々逸
(この言葉は東棟4階にあります)

 佃島という下町に生まれたものだから、子供の頃から昔の日本を味わってきた。小学校に入るころまで佃大橋はなく、渡し船が明石町との間を結んでいた。我が家は船着場から2軒目にあった。現在は銭湯に入れ墨者は出入り禁止だそうだが、当時の男湯は倶利伽羅紋々(くりからもんもん)が大勢いた。ちっとも怖くなかった。
 おそらく都々逸(どどいつ)の調べに慣れ親しんだのも佃島に住んでいたからだろう。都々逸は江戸末期に始まった、口語による定型詩で、七・七・七・五のリズムで成り立っている。三味線と共に歌われ、寄席や座敷などでも演じられ、 男女の恋愛を詠んだものが多い。例えば「嫌なお方の親切よりも 好いたお方の無理が良い」などというものだ。
 駄洒落などの言葉遊びも多く「信州信濃の新そばよりも わたしゃあなたのそばがよい」などは今でも聞くことがある。言葉遊びの天才、サザンオールスターズの桑田佳祐は「東京シャッフル」という曲で「恋の花咲く ロマンの都 女ばかりに 気もそぞろ 夢もほころぶ 小意気なジルバ 君と銀座の キャフェテラス」と七・七・七・五の作詞をしている。

 白だ黒だとけんかはおよし 白という字も墨で書く
 小さな違いを乗り越えられなくて、いがみあう二人。白という字を見てごらん。真っ黒な墨で書かれているじゃないか。あんたたち大して違いやしないんだよ。てなところでしょうか。
 現代的な目でこの都々逸を読むと、どうしても「白」「黒」という言葉によって、私は人種問題へと気持ちが引きずり込まれてしまう。もちろんこの都々逸は昔の日本のものだからそんな意図は全くないのだが、永遠に続く白黒の無駄ないがみあいを想起させる。
 かつて黒人のスティービー ワンダーと白人のポール マッカートニーが「エボニー アンド アイボリー」という曲をデュエットで歌っていたことがある。エボニーは黒檀(材質が黒)アイボリーは象牙(材質が白)のことで、ピアノの黒鍵と白鍵がひとつのハーモニーを奏でるという歌だが、白と黒は小さな違いをいつの日か乗り越えられるのだろうか。そして材質に違いのない日中韓のいがみあいはいつまで続くのだろうか。成城学園の生徒たちには人生で直面するいろいろな違いを乗り越えられる広い心と、この都々逸の軽やかな賢さを身につけてほしい。

中高すべての入試が終わりました。新しく仲間になるみなさんとお目にかかる日を楽しみに待っています。