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  • 2016.06.23

    言葉の筋トレ 5 「Love the life you live, live the life you love.」

    言葉の筋トレ 石井弘之

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第5回

Love the life you live, live the life you love.

キミが生きる人生を愛せ、キミが愛する人生を生きよ。

Bob Marley

(この言葉は西棟2階にあります。)

 ザックを背負ってアジア旅に出ていたころ、この世にiPodのような便利なものは存在せず、携帯できる音楽ギアはカセットテープのいわゆるウォークマンしかなかった。今の中高生はカセットテープがどういうものか知っているのだろうか。1本には120分程度までしか録音できない。だいたいCD2~3枚分だ。小さな中に何千曲も格納できる今の音楽メディアとは雲泥の差である。最近の子はCDすら買わないらしい。ネット配信だ。
 旅に出るのに日常を引きずるのは勇気がない証拠だが、結局私は断ち切ることができずカセットテープを1本持って日本を出発した。バックパック1つにすべての荷物を詰め込んで背負って何か月も歩き回るのだから1本がせいぜいだった。日本のブルースバンド「憂歌団」、忌野清志郎率いる「RCサクセション」、そして今回紹介する言葉を発したジャマイカ出身のレゲエ・ミュージシャン、ボブ・マーリー。それぞれCDを1枚ずつそのカセットに録音して持っていった。
 無人島に暮らすとき、本を1冊持っていけるとしたら何を選ぶか。という種類の問いが流行ったことがある。本にせよCDにせよ、究極の1冊、1枚を選ぶのは至難の業だ。選ぶことは他のすべてを捨てること。そういう頭の動きは自分を振り返らせる。自分にとって大切なものは何か。愛しているものは何か。お遊びだとしても真剣にならざるを得ない。
 今はそんな問いそのものが空しい時代になった。iPodだけではない。電子辞書が壊れて買いなおしたが、新機種には日本の名著が1000作品、英語で書かれた世界の名著が1000作品収録されていた。道具が、選ぶ行為すら否定し始めた。技術の進歩は人間の感覚を変えていく。成城学園の生徒たちには自分の人生を愛し、大切にする人間に育ってほしい。だが自分の愛する人生をこれからの若者はどうやって確かめていくのだろう?
 Love the life you live, live the life you love.  キミが生きる人生を愛せ、キミが愛する人生を生きよ。
 南インドの安宿で私はこの言葉に出会った。それは白人の若者の皮膚の上にあった。日本人は入れ墨に対する嫌悪感が強いが、アメリカでもアジアでも入れ墨をしている人は意外なほど多い。入れ墨お断りの温泉で外国人観光客がトラブルになっていると聞く。これもグローバル化の影響のひとつなのだろう。
「そのタトゥーの言葉良いね。キミが考えたの?」
「ボブ・マーリーだよ」
「へぇー。オレが唯一持ってきたカセットにもボブ・マーリー入ってるぜ」
 ジャマイカで政治的対立が激化していたころ、対抗する二つの勢力の代表を自分のコンサートのステージにあげて握手をさせた。36歳で没。ジャマイカでは国葬がおこなわれた。